資産管理法人の「乗っ取り」で不動産が売却された事例

最近,資産管理会社などの法人を「乗っ取って」,その所有する不動産を勝手に売却するという衝撃的な事例が報告されています。
(参考 楽待編集部『法人の登記を書き換えて「勝手に物件売却」、防ぎようがない乗っ取り型」地面師の犯行とは』)

不動産や法人登記に関わる士業としても見過ごせない,悪質かつ巧妙な手口についてご紹介します。


事件の概要:会社を乗っ取って不動産を売却

この事例では,次のような手順で法人登記が不正に変更され,不動産が売却されてしまいました。

・代表者の「住民票」を不正取得

犯人は,虚偽の債権回収等,何らかの手段で法人の代表者の住民票を取得。これにより,本人確認資料の偽造に必要な情報が揃えられました。

・運転免許証を偽造

住民票の情報をもとに,代表者になりすました偽造の運転免許証を作成。これが本人確認資料として使われたと見られています。

・実印の登録変更を実行

勝手に会社の実印を変更し,その印影で会社の役員変更への登記申請書の押印等を行います。しかも法務局は,提出書類が整っていれば受付してしまいます。

・会社の登記変更 → 不動産売却

役員変更登記を済ませ,法人の代表者が偽者に切り替えられた状態で,資産である不動産を第三者に売却。
登記簿上はすでに代表者として記録されているため,司法書士や取引先も気づきにくい構造となっていました。


なぜ司法書士も見抜けなかったのか

登記の実務上,提出書類に不備がなければ手続きは進んでしまいます。
また,法人代表者が新任された場合,本人確認書類と印鑑証明書等が揃っていれば,本人かどうかの真偽を登記官が積極的に確認することはほとんどありません。

司法書士であっても,実印変更や代表者の移動が合法的に見える限り,不正を疑う材料は乏しく,「よほどの警戒心と知識」がなければ見抜くのは困難です。


どう防ぐべきか→ 登記簿・印鑑証明の定期的な確認

会社側としてできることは,実印が勝手に変更されていないか,役員構成に異常がないかなど,定期的に登記簿を確認するしか方法がないです。


防衛策は有効か

今回ご紹介したのは,会社そのものを乗っ取って資産を売却するという大胆かつ悪質な手口です。
不動産や法人に関わる方にとっては,決して他人事ではありません。

正しい知識と警戒心を持ち,日頃から防止策を講じておくことが,大切かと思われます。