相続登記義務化による過料のお知らせがやってくるかも

相続登記義務化に伴い,相続登記をしておかなければ,いつか過料のお知らせがやってくるようです。そこで,この過料事件の手続きについて確認してみましょう。

登記の法律に基づく過料となる違法行為が法務局により発見された場合には法務局の登記官から地方裁判所に通知されます。
(不動産登記規則第187条,商業登記規則第118条)

違法行為の嫌疑をいだくきっかけを「端緒」(たんちょ)といいますが,相続登記義務化に伴う端緒については,通達により,以下に定められています。

  1. 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき
  2. 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき
    令和5年9月12日 法務省民二第927号 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係(通達)】

この端緒後,登記官は「申請の催告」(相続登記の申請を促す)をするようです。催告後に申請をしたり,一定の正当な理由(相続人多数,相続人の争い,重病,DVによる避難,経済的困窮等が挙げられています)があれば,過料制裁は受けないとのことです。

登記官の催告に基づいて申請を行ったり,経済的困窮を理由としてできない旨を回答すれば,過料制裁を逃れることができるため,「3年以内」という期間制限(改正不動産登記法第76条の3第1項,第2項)の実効性は,やや疑問が残るところです。

相続登記義務化の期限

相続登記の登記義務の期間について,整理しました。

相続登記義務化の法律が本年4月から施行されます。このルールには罰則規定があり,登記が遅れると10万円以下の過料を受ける可能性があります。

この義務の「期限」に関する問い合わせが多いため,一応メモとしてまとめました。
(4月施行以降に通達等で変更される可能性はあります。)

3年は,「相続の開始」と不動産を相続で「取得」したことを「知った日」から起算(改正不動産登記法 第76条の2第1項)
 不動産の存在を知らなかったり,被相続人と離れて生活していて,相続開始を知らなかった場合には,被相続人の亡くなった日が「知った日」とはなりそうもないです。

遺産分割協議があった場合には,「遺産分割をした日」から3年以内
(同条第2項)

本年4月1日より前に相続を知ったものについては,施行日から3年の「令和9年3月31日」まで
 (令和三年四月二八日法律第二四号 改正不動産登記法 附則第5条第6項)
 法律改正前の相続については,「知った日」か「施行日」のいずれか「遅い日」になります。

つまり,現在相続の登記をしていない不動産の登記の期限は,3年後に到来することになります。

相続土地国庫帰属は,国庫への帰属率がわずか約3.6%

かなり厳しい数字です。

今日は,相続土地国庫帰属制度の11月の結果について考察します。
法務省から以下の数字が出ました。
(参考:法務省 令和5年12月28日「相続土地国庫帰属制度の統計」11月末現在のの結果)

申請件数 1,349件
帰属件数 48件
帰属土地が所在する都道府県
北海道,宮城県,秋田県,福島県,群馬県,埼玉県,千葉県,富山県,福井県,岐阜県,愛知県,三重県,滋賀県,京都府,岡山県,広島県,徳島県, 香川県,愛媛県,佐賀県,熊本県,宮崎県,鹿児島県

長野県がありません。大変厳しい数字です。

取下件数92件,不承認件数4件だそうで,実際の承認率は,48/96で,50%程度で,他は,審査中かと思われます。

相続土地国庫帰属制度は要件が厳しめ(以前の本ブログの記事参照)のため,慎重な検討が必要です。

相続人申告登記も視野に

相続登記の義務づけられても,すぐに登記できない場合もありますね。

そこで,相続登記の準備段階として,「相続人申告登記」という制度が来年4月からスタートします。

「相続人申告登記」は,相続人が申請義務を簡単に解決できるようにするため,新たな登記として設けられました。

具体的には,
 ①所有権の登記名義人について相続が開始した旨
 ②相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に申し出る
ことで,申請義務を相続登記の代わりに,履行したものとみなされる制度となります。
(仙台法務局:「相続登記の申請の義務化と相続人申告登記について」)

メリットしては,
 ①相続人が複数存在する場合でも,特定の相続人が単独で申出が可能
 ②法定相続人の範囲や,法定相続分の割合の確定が不要
となります。
(仙台法務局:同上資料)

以上のように,遺産分割協議が遅れて誰が相続するかが分からなかったり,相続人が数十人いて,戸籍が集めるのが大変である等,法定相続の割合の確定が難しい場合などは,相続人申告登記の検討も必要かと思われます。

相続税の基礎控除の範囲でも,お知らせの来ることがあるらしい

相続税で基礎控除の範囲内でも,真偽はともかく,税務署から申告するようにお知らせが来たという,記事がありました。
(THE GOLD ONLINE:【遺産総額4200万円】50代独身女性、税務署から届いた「相続税についてのお知らせ」に震える…申告期限まで1ヵ月半の〈絶体絶命〉

相続税で基礎控除の範囲内でも,真偽はともかく,税務署から申告するようにお知らせが来ることがあるらしいです。

税務署からお知らせが到着したら焦ると思いますが,申告の期限(故人の死亡の翌日から10か月以内に申告書を提出:相続税法第27条第1項)があるため,注意が必要です。

土地の国有化制度と悪徳商法

国有化の希望は増加していますが,悪徳商法への懸念があります。

相続土地の国庫帰属制度の申請の受付が4月から開始されているようですが,法務局への相談が相次いでいるようです。

国庫帰属制度は,固定資産税や管理等の負担を減らすには有効ですが,この制度の利用には厳格な要件があるため,今後悪徳商法の被害が増加する懸念があります。
(参考:読売新聞「土地を相続したけど使い道ない…「国有化」相談殺到、「所有者不明」防ぐ制度」)

例えば,原野が値上がりすることを謳ったり,放棄に多額の手数料が必要となったり,知らないうちに別の土地も買わさらたりする可能性も出てきます。

新たに被害が出ないよう,まず,土地の国有化制度は,要件が厳密であることを知っておく必要があるかと思います。
(要件例は,過去のブログを御覧ください。「不要な土地の放棄の問い合わせ増加」)

遺言書の保管を勧められた

あまり申請件数が多くないようです。

長野地方法務局では供託と遺言書の保管が,同じ窓口で行われています。

遺言書の保管は,3年位前から始まった制度で,自筆で書いた遺言を保管し,遺言の保管を相続人に通知することができ,家庭裁判所の検認を不要とする制度です。
(参照:法務省「自筆証書遺言書保管制度について」)

当該法務局の職員のかたから,申請件数が少ないということですすめられました。

全国で遺言書を作成している人が全体の7%弱に過ぎないというデータがあります。
(参考:平成29年法務省調査「平成 29 年度法務省調査我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務」)

政府や金融機関が個人投資を推進していることもあり,財産が複雑化し,個人の株式や投資信託の保有が増えており,個人資産も複雑化しています。
(参考:日本証券業協会「個人株主の動向について」)

よって,今後は多くのかたが資産を的確に後世に伝えるため,遺言の作成されることをおすすめしています。

相続人の相続(数次相続)の後相続に遺言書で全部相続(包括遺贈)があった場合,前相続の当事者は,全部相続者(包括受遺者)のみにできる

不動産の名義人甲が死亡し,その相続人が乙と丙であり,遺産分割協議未了の間に丙が死亡した場合,丙の相続人はA,Bの2人になりますが,丙が「全ての相続財産をAに相続させる」との遺言書を作成していたときには,前の相続の遺産分割協議の当事者は,乙とAの2名となります。Bの遺産分割協議への参加不要です。(登記研究831号参照)

ただ、Bから遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)がなされていない場合に限るようです。よって,遺産分割協議書に「Bから遺留分侵害額請求権の行使がない」旨の記載をするか,上申書を添付するかのどちらかが必要となるようです。
(出典:圓岡(まるおか)先生のホームページ「数次相続発生時に、相続人の一人に全部相続させる旨の遺言(包括遺贈)がある場合」)

司法書士同期に聞かれて,調べてみました内容ですが,法律上(民法 第990条 包括受遺者の権利義務)正しくても登記申請で使えるか,金融機関では,どうかという点では考えないといけないので注意が必要です。

相続登記の申請義務の違反者には,分かった時点で円滑に過料制裁をするつもりのよう

不動産登記規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集にて,相続登記申請義務化にあわせて,過料(行政手続き上の罰金みたいなもの)の手続きの整備がされるようで,過料制裁(裁判所から罰として国にお金を払うよう通知がいく制裁)が間違いなく機能することになりそうです。
(参考:「不動産登記規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集」)