Linux(Fedora)サーバーでVPN利用時のVoipとNAT変換の動作

Fedoraサーバーへのセキュリティ向上のため、ファイアウォール設定を従来のiptablesからFirewalldへ移行しましたが、移行後に内線電話で利用しているSIPサーバーが正常に動作しない事態が発生しました。このようなケースにおける検証結果と解決策についてご紹介します。

SIPサーバーは以下のとおりで使っています。

業務ネットワークイメージ

問題の発生状況

Fedoraサーバー上では,SIPサーバーを通じて業務ネットワーク内のWiFi接続(192.168.0.xおよび192.168.1.x)でSIPクライアントを利用しています。SIPクライアント(iphoneアプリ)として使用しているのはAGEPhoneで,VPN経由で接続しています。

移行後,SIPクライアントが「403 Forbidden」エラーを返し,通信ができなくなっていることが判明しました。
パケットキャプチャを使用して詳細を調べたところ,IPマスカレード(NAT変換)の動作により,SIPプロトコルが正しく機能しなくなっていたことがわかりました。

検証結果と原因

以下のように,Firewalldによる設定ではVPNのホスト名に変換され,SIPサーバーが要求するIPアドレス認証に一致しないため,403エラーが発生していました。

すると,iptablesでは,ipアドレスでSIPサーバーにアクセスしていましたが,Firewalldでは,NAT変換されてしました。(「tcpdump host 192.168.0.3」で検証)

iptablesの設定:

192.168.1.x > 192.168.0.3 (SIPのIPアドレスで通信)

Firewalldの設定(IPマスカレード設定時):

vpn.example.com > 192.168.0.3 (ホスト名に変換され通信不可)

この問題の原因は,SIPが発信元IPアドレスの一貫性を必要とする仕様により,NAT変換されたアドレスを受け入れないことにありました。

解決策

Firewalldの設定を見直し,IPマスカレード(NAT変換)を解除することで,SIPサーバーが元のIPアドレスで通信できるようにしました。具体的には,以下のコマンドを使用しました。

firewall-cmd –zone=internal –remove-masquerade –permanent
firewall-cmd –reload

この設定変更により,異なるローカルネットワークでも直接IPアドレスがやり取りされ、SIP通信が可能になりました。パケットキャプチャ上でも発信元のIPアドレスが確認できるようになりますが、SIPの仕様に従うための対応です。

SIPとNAT変換のドキュメントがなかなかありませんでしたが,学会論文誌に掲載がありました。
【情報処理学会論文誌:「ファイアウォールや NAT を通過できる IP 電話の提案と評価」 伊藤将志氏, 鹿間敏弘氏,渡邊晃氏】

他のサービスでの影響

SIPサーバー以外のサービス(Samba,Web,RDP,Ping,SSH等)は,IPマスカレードを使っていても問題なく動作しているため,通常はマスカレードを導入したほうが利便性が向上します。しかし,SIPサーバーを使用する場合は,IPマスカレード解除の設定を行うことが推奨されます。

まとめ

SIPサーバーの設定には,ファイアウォールの詳細設定が関わってきます。Firewalldに移行した際には,各サービスごとの通信要件を確認し,必要に応じてマスカレードの有無を調整することが重要なようです。今後も,安全かつ効率的なネットワーク運用を目指して設定の改善に取り組んでまいります。