NISAを急ぐ前に、少し立ち止まる―円安とインフレの時代の資産防衛

マスコミではNISAの活用が盛んに取り上げられています。
あわせて、円安の進行やインフレ期待を背景に、「預金だけでは実質的に目減りするのではないか」という不安も広がっています。

もっとも、資産の基礎は預貯金で十分です。
生活費や緊急資金まで投資に回す必要はありません。

そのうえで、投資をどう位置づけるかが問題になります。


投資の動機を整理する

投資を考える背景には、

  • マスコミや政府等によるNISAの積極的な紹介
  • 円安が進行する可能性
  • 物価上昇による実質価値の目減りへの懸念

があると思います。

これらは一定の合理性があります。
ただし、「不安」だけを動機に割合を増やすのは慎重であるべきです。


NISAを使うなら割合を限定する

投資を行う場合でも、

資産全体の10〜30%程度

にとどめるのが現実的と思われます。
一般に証券会社等は、40%程度を勧めていますが、実際、邦人の投資割合は、平均で30%程度のようです。
(参考 大和証券社「投資の割合はいくらが適切?貯金とのバランスや決めるポイントをお金のプロが解説!」)

例えば、預貯金の資産3,000万円なら、300万〜900万円程度です。

株式市場は、10年に一度程度の大きな下落を経験します。
その局面でも生活が揺らがない設計が前提です。


投資先は分散型を基本にする方法も

個別銘柄への集中投資は、株式投資に慣れていない場合には、銘柄も多く選びづらいものがあります。

そこで、最近話題に上がっているものの中には、

  • 世界全体に分散するインデックス型投資信託
  • いわゆる「オルカン」型の商品
  • 低コストのETF

といった、広く分散された商品も人気があるようです。

企業一社ではなく、市場全体の成長に投資するという考え方です。


金ETF等は「保険」として位置づけるか?

円安や通貨不安への備えとして、金現物等の資源投資に関心を持つ方も増えています。
金ETFは、現物を保有せずに金価格に連動できる手段として便利です。

ただし、

  • 利息や配当は生みません
  • 価格変動は決して小さくありません
  • 実質金利の上昇局面では弱くなる傾向があります

金は「増やす資産」というよりも、「守るための保険」に近い性質です。

保有する場合も、資産全体の一部(例えば5〜10%程度)にとどめるのが穏当であるとされてます。


目的は「守りながら備える」こと

NISAは有用な制度です。
しかし「やらなければ損」というものではありません。

円安やインフレへの備えは一定程度必要ですが、それ以上に大切なのは、

  • 生活資金を確保すること
  • 下落してもあわてない割合にすること

そして何より、投資には、価格変動リスクがあり、最終的な判断と結果は自己責任を伴います。

預貯金を土台に、余裕資金の範囲で分散投資を行う。
その程度の姿勢が、現時点ではもっとも現実的だと考えます。

【要警戒】NISA口座・相続と同時に非課税は消える

NISA制度は、配当税や譲渡益税の非課税を受けられることに加え、金利上昇が物価上昇に追いついていない状況等も背景に、爆発的に普及しています。昨年3月末時点で、2,646万口座に達しています。
(参考 金融庁「NISAの利用状況」)

世代別では、30代、40代の利用が多いものの、60代以上の口座数も4分の1に上っています。相続の関係する世代においても、NISAは無関係とはいえない状況です。
(参考 日本証券業協会「NISA口座の開設・利用状況」)

そこで気になるのが、NISA口座の相続です。主な注意点は、次のとおりです。

・亡くなった時点で非課税措置は終了する
・相続人の管理口座に移す場合、取得日と取得価格は相続の日(亡くなった日)の時価が基準となる
・相続人のNISA口座には移管できない
(参考 大和証券「生涯非課税だからこそ気になる!?新NISAの相続」)

「生涯非課税」という表現から、死亡後も非課税が続くと誤解されることがありますが、非課税措置はあくまで口座名義人が存命中であることが前提あり、また、相続手続きが完了するまでは、証券会社上は被相続人のNISA口座として管理されます。しかし、税務上は死亡日に非課税措置が終了しています。

そのため、死亡日以後に生じた配当等については課税対象となり、手続きが遅れた場合には、配当税等の追納が生じる可能性すらあります。

NISA口座は税制上のメリットが大きい一方で、相続時には独特の取扱いがあります。相続が発生した場合には、預貯金や不動産と同様に、証券口座の有無を早期に確認し、速やかに解約や移管の手続きを進めましょう。

株式分割をする会社が増加

上場企業の株式分割によって,株の取引が促進されます。

1株を1万円以下や5千円以下にするなど,投資促進のため,株式分割をする上場企業が増加しているようです。
(参考 NHK:【「株式分割」実施する企業が増加 NISA拡充で個人投資呼び込む】)
7月までに株式分割した上場企業は,139社だそうです。

株式分割とは,資本等を変えないで,基準日に所有している株主の株式を1株あたり数株の割合で増加させることをいいます。(会社法第183条各項)

上場企業が株式分割をする要因としては,株価の高騰により,1株あたりの株価が増加し,本邦の株式市場ですと,ほとんどの会社の単位株式数が100株のため,例として株価が1万円以上の1回の取引で100万円以上になってしまいます。そこで,株式分割により,1株あたりの単価を下げて,1回あたり数十万円程度で取引できるようにしたり,場合によっては,1株あたりの株価を2,000円以下にして,1回の取引を20万円以下にすることで,さらに投資を呼び込もうとしています。
(参考 会社四季報オンライン編集部【2024年8月に基準日を設定して「株式分割」する銘柄一覧】)

ただし,多くの人が当該株式の取引に参入してきた場合には,NISAによる取引の増加要因を含めて,株価の乱高下が激しくなることもありますので,慎重な判断も必要かと思います。

株価が落ちることの一考

日経平均株価が歴代2位の下落率というというニュースがありました。終値ベースで-2,216円だそうです。
(日本経済新聞社「日経平均株価の下落幅とは ブラックマンデー時3836円安」)

おそろしく平均株価が下落したわけですが,理由としては,日本経済新聞社の分析によると,「売りが売りを呼ぶ」プログラム取引の影響だとしています。そのほかに元の売りの発端等を分析すると,理由は様々ですが,特にアメリカの景気後退局面における利下げや,日本銀行の量的緩和政策解消に伴う利上げの要因による株価の調整局面であったというものがあります。
(参考:ロイター「日経平均は大幅続落、円高と米景気減速感で 今年最大の下げ」)

本年の新NISAに伴う投資の需要の増加により,多額の資金が投資信託マーケットに流入により,今までは株価を押し上げていたのかもしれませんが,今回の下落傾向は,NISAを利用されている方にもかなりの心理的な影響を与えます。
(参考:野村総合研究所「新NISAが投信マーケットに与えた影響をビジュアル化してみた
(参考:日本経済新聞社「海外株投信の資金流入最高 1〜6月、新NISA開始で」)

今回の株価下落で短期的には痛い目をみるかたもおられるでしょうが,投資先は慎重に検討を促すよい機会になればと思います。