意外に相続人申告登記が熱い

令和6年4月から,相続登記が義務化されました。
相続登記をしないまま放置しておくと,正当な理由がない限り,10万円以下の過料の対象となる場合があります。

しかし,「まだ遺産分割が終わっていない」「相続人の一人が行方不明だ」といった事情で,すぐに相続登記ができないこともあります。
そのような場合に利用できるのが「相続人申告登記」(不動産登記法第76条の3)です。


相続申告登記とは

相続申告登記は,権利を確定する登記ではなく,あくまで「相続登記の義務を一時的に免れるための手続」です。
法務局に「この不動産の名義人の相続人は誰か」を申告する制度であり,所有権が確定するわけではありません。

相続登記は,本来,相続人が自己の相続を知ったときから3年以内に行う義務がありますが,相続申告登記を行えば,一定の要件のもとでこの義務を果たしたものとして扱われます。


なぜこの制度が設けられたのか

相続登記が義務化される前は,遺産分割がまとまらないまま放置されるケースが多く見られました。
遺産分割をしないまま相続登記を行うと,法定相続分(民法第900条)で登記されるため,不動産の名義が細分化し,所有関係が複雑化するという問題がありました。

さらに,すべての不動産が価値ある財産とは限りません。
中には,古い実家や,維持費がかかるだけのいわゆる「負動産」も存在します。
こうした不動産では,相続人の間で「誰が引き取るか」をめぐって調整が長引くことも少なくありません。


とりあえず申告登記をしておくという選択

このような場合,とりあえず相続登記を保留し,代表して管理している相続人の名義で申告登記をしておくという方法があります。
相続人の一人が行方不明の場合や,遺産分割協議が成立していない場合でも利用できるため,最近では利用する方も増えてきています。


「つなぎ」としての申告登記

相続申告登記は,相続登記の義務を回避するための「つなぎ」の制度です。
権利を確定するものではありませんが,「今は登記できない」という状況での現実的な対応策として覚えておくとよいでしょう。

不動産の種類や家族の事情によって最適な対応は異なりますので,迷われた際は司法書士に相談されることをおすすめします。

知っておきたい遺言とデジタル遺産のポイント

はじめに:

あなたの家族の未来を守るために当事務所では,相続や遺言に関するお悩みを解決し,皆さまの安心な未来をサポートしています。
日々発信している相続のコツを基に,今回は「遺言」と「デジタル遺産」の重要性について,少し解説します。

遺言で家族の負担を軽減

相続は人生の大きな節目ですが,準備不足だと家族に負担をかけることがあります。
たとえば,「遺産分割でもめないようにしたい」「特定の財産を大切な人に残したい」といった願いをかなえるのが遺言書です。

遺言書は書面での明確な取り決めがカギ。
公正証書遺言なら,法的な効力もバッチリで,相続手続きがスムーズに進みます。

さらに,生前贈与を活用すれば,あらかじめ家族名義にしておくことも可能です。不動産を生前に贈与する際は,贈与契約書の作成や登記手続きを司法書士に相談することで、ミスなく進められます。

デジタル遺産の落とし穴に注意

現代では,デジタル遺産(SNSアカウント,オンライン銀行,暗号資産など)も見逃せません。デジタル遺産は「見えない財産」ゆえにトラブルになりがち。
たとえば、故人のスマホに残されたパスワードや、クラウド上のデータはどうなるのでしょう?

解決策は,デジタル遺産のリストアップと遺言への記載です。
IDやパスワードを安全に管理し,信頼できる人に引き継ぐ方法を事前に決めておきましょう。

おわりに:

まずは気軽にご相談を相続や遺言は,早めの準備が安心の第一歩。
「何から始めればいい?」「デジタル遺産ってどうすれば?」といった疑問をひとつひとつあらかじめ解決しておくことをおすすめします。

(この文書は文案を当事務所のXの投稿に基づき,Grokで作成してみました。感想がありましたら,お知らせください。)

実家の相続の際のデメリット

いわゆる「実家」に現在お住まいの方や,近隣に居住して日常的に活用できる方にとっては,実家を相続することが特段の問題とならないケースも多くあります。
しかし一方で,実家を相続すること自体がデメリットとなる場合も少なくありません。

AlbaLink社が調査したアンケートによると,「実家を相続するデメリット」として多く挙げられたものは,次のとおりです。
(参照:dmenuニュース『実家を「相続するデメリット」ランキング』)

  • 活用できない
  • 管理に手間がかかる
  • 金銭的な負担が生じる

とりわけ金銭的な負担は見過ごせない要素です。立地によっては固定資産税が高額になることがあり,また,築年数が古い建物では維持・修繕のための費用がかさむ傾向にあります。

そのため,相続の場面では相続人同士で十分に話し合い,実家を引き取る場合にかかる費用負担を加味したうえで,遺産分割の内容を決めておくことが望ましいといえます。
実家の相続は,感情面だけでなく経済的な側面からも冷静に検討することが必要です。

家附の継子(いえつきのけいし)についてのおさらい

当ウェブサイトでも検索数がやや多めの「家附の継子」の相続権について,テイハン社発行の『登記研究』929号(令和7年7月号)に掲載された内容を踏まえて整理してみます。


第1順位の相続の範囲

通常,相続権を持つのは以下のとおりです。

  • 直系卑属(実子・養子・その子)
  • 配偶者

この範囲が第1順位の相続人として扱われます。


家附の継子とは

戦後の民法適用後も,例外的に「継子(血縁関係のない配偶者の子)」に相続権が認められる場合がありました。これを「家附の継子」といいます。いわゆる相続特例です。


家附の継子の要件

相続権が認められる継子となるには,以下の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 昭和22年5月3日(民法応急措置法施行時)に戸主であったこと
  2. 戸主が婚姻または養子縁組によって他家から入籍した者であること
  3. 戸主とその家(戸籍)で生まれた配偶者の子であり,同日に継親子関係が成立していること

このように,「家附の継子」とされる場合に限り,相続権が発生しました。


相続権の例外

現代の相続制度では基本的に継子に相続権はありませんが,過去の戸籍制度と民法の施行時期の関係で,例外的に「家附の継子」と呼ばれる立場にある方には相続権が認められました。

相続に関するご相談や具体的な事例がある場合には,司法書士等の専門家に確認されることをおすすめします。

相続した空き家の売却特例の可否

空き家特例の概要

相続した空き家を売却する際に適用できる「空き家特例」は,父または母が居住していた土地・建物を売却した場合に,所得税の譲渡所得について特別控除が認められる制度です。
(国税庁「相続した空き家を売却した場合の特例 チェックシート」)

空き家増加と特例の注目

空き家が増加傾向にあるようで,将来の売却を見据えて空き家特例の適用を前提とした名義変更を相談される方も増えてきています。
(参考:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」)

注意点

特例の可否判定を十分に検討せずに名義変更をしてしまうと,後から修正することが困難な場合が多いです。
特に「更正登記や再遺産分割協議で是正できないか」との相談が寄せられますが,実際には救済されないケースが多いようです。

裁判例や実務の指摘

専門家となる税理士とよく相談の上で検討する必要があります。
更正登記や再遺産分割協議をしても特例が認められないケースが多いことが指摘されています。
(参考:税法好きAIお嬢(オタク)の実務ノート「【判例×実務】東京地裁R6.9.2判決と空き家特例——譲渡前の『抹消・再登記』で特例適用の余地」)

専門家に相談を

空き家特例を見据えて売却を予定する場合は,国税庁チェックシートで一次確認を行い,必ず税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
名義変更と売却の順番と設計が重要であり,一度進めた手続を後から更正しても救済されないことが多いため,事前の全体の設計で失敗を防ぐようにしましょう。

お盆はベストタイミング-家族が集まる今こそ話しておきたい相続のこと

◆お盆は家族が集まる貴重な機会

普段は離れて暮らす家族や親戚も,お盆には一堂にかいす場合が多いです。相続の話は全員がそろっている時でなければ難しくことが多く,お盆はその絶好のチャンスと言えます。


◆相続の話は「安心の準備」

「相続の話をするのはちょっと…」という声もありますが,実際には家族の安心を守るための準備です。事前に方向性を決めておけば,将来の争いや手続きの混乱を防げます。


◆話し合うべき主なポイント

  • 遺言書の作成や,保管場所の確認
  • 相続財産の概要(特に不動産)
  • 葬儀やお墓の希望
  • 分割方法や生前贈与の方針の確認

◆話し方のコツ

感情的にならないために,「資産の額」からではなく「思い」や「希望」から話し始めるとスムーズかと思われます。
「もしものときに家族が困らないように」——という前向きな姿勢で進めるのがいいとされています。


◆とにかく話してみてください

お盆は単なる帰省の機会ではなく,家族全員が顔を合わせる年に数回の貴重な時間です。相続の話を先延ばしにすることなく,お盆の団らんの中で第一歩を踏み出すのがよいかと思います。

自筆証書遺言の原稿用紙の公開について

本日は,当事務所(山下司法書士事務所)で使用している「自筆証書遺言書」の原稿用紙を公開いたします。

自筆証書遺言原稿(PDF)


自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言書は,公正証書遺言書と比較して,手軽に作成できるという大きな利点があります。費用や作成にかかる期間も抑えられ,自身のタイミングでいつでも撤回・修正できるという柔軟性も魅力です。

一方で,

  • 記載方法に誤りがあると無効になる可能性がある
  • 偽造・改ざんのリスクがある

という点には注意が必要です。


作成方法の一例

遺言書を自筆で作成される場合,この原稿用紙を印刷してご利用いただき,全文・日付・氏名を自筆で記載し,押印することで,形式上の要件は満たすことができます。

さらに,下記のように,封筒に「遺言書」などと明記し,検認の注意書きと日付・氏名を書いて封印しておくことで,秘密性もある程度確保され,トラブルのリスクも軽減されます。

また,封筒に署名をせずに,証人とともに公証人役場で手続きをすれば,「秘密証書遺言書」として正式に取り扱われることも可能です。こちらは内容を他人に知られたくない場合に有効です。


内容の参考:長野地方法務局「エンディングノート」

遺言書の具体的な内容について悩まれる方は,長野地方法務局が作成した「エンディングノート」を参考にされると良いでしょう。

長野地方法務局「エンディングノート」


専門的な内容が必要な場合は

財産の分け方が複雑な場合や,相続人間でのトラブルが予想される場合には,専門家への相談をおすすめします

当事務所はもちろん,全国の司法書士事務所・弁護士事務所でも,内容確認やアドバイスを行っていますので,お気軽にお問い合わせください。

【令和7年度 路線価】全国平均2.7%上昇,長野県も0.6%上昇―4年連続の上昇傾向

国税庁が発表した令和7年度年分の「路線価」は,全国平均で2.7%の上昇となり,4年連続のプラスとなりました。観光需要の回復や都市部の再開発が影響しており,地価の上昇傾向が続いています。

長野県でも0.6%の上昇が見られ,昨年に続いてプラスとなりました。特に観光地や交通利便性の高い地域では,上昇傾向とのことです。
(参考:ビジネスジャーナル【路線価4年連続上昇=平均2.7%、インバウンド影響―下落県も減少・国税庁】)

路線価とは?

まず,簡単に「路線価」とは何かをおさらいしておきます。

路線価は,相続税や贈与税の算定基準となる土地の評価額のひとつで,主要道路に面した土地1㎡あたりの価格として,毎年7月に国税庁が発表しています。実勢価格(実際の取引価格)とは多少の乖離があり,納税実務や不動産評価に大きな影響を与えます。

なお,路線価の上昇は相続税や贈与税の評価額にも影響するため,土地を所有されている方は今後の資産対策を検討されることをおすすめします。

再婚と遺産トラブルを回避した遺言書

再婚された方の相続に関するトラブルは,実は意外と多く見られます。特に,前婚の親族と後婚の親族の間で,遺産分割をめぐる意見の対立が起きやすいです。

ある記事では,このような事例が紹介されていました。(参考:朝日新聞『熟年再婚で義理親子の「争続」が勃発 遺言トラブルで検認が増加』)

前婚の子と,後婚の配偶者の親族との間で遺産をめぐる対立が起こりそうになったが,被相続人が生前に作成していた遺言書によって,スムーズに解決された。

このような対立は決して珍しくありません。たとえば次のような具体的なケースがあります。

  • 前婚の子の住家となっていた不動産が,後婚の妻に相続されそうになったため,住み続けられなくなるおそれが出た
  • 後婚の妻が,日常の生活費として確保していた貯蓄を,前婚の子から遺産分割の対象として要求された

遺言書は,相続人間のトラブル防止に極めて有効な手段です。

実際に,司法統計でも遺言書の検認の件数はここ数年増加傾向にあります。これは,遺言書が今後の相続対策として注目されている証拠とも言えるでしょう。

相続対策としてのポイント

  • 再婚など家族関係が複雑な場合は,生前からの対策の検討が必要
  • 遺言書の作成により,自身の意思を明確にでき,後の親族を守ることができる
  • 遺言執行者の指定や公正証書遺言にすることで,執行力(遺言を有効にする力)を高められる

再婚に限らず,親族関係において少しでも「気がかり」な点がある場合には,遺言書の検討をおすすめします。

相続税調査にAI導入・申告後も“AIの目”に要注意

令和7年(2025年)7月から,いよいよ相続税調査にAIが本格導入される予定です。
これまで人の目と経験に頼っていた税務調査が,データ分析に基づくスコア評価に移行しつつあります。


国税庁,AIで相続税の申告内容をスコア化

国税庁は,相続税の申告データを集約し,申告内容に基づいて「税務リスクスコア」を算出,このスコアをもとに税務署が実地調査を行うかを判断する仕組みに移行するとのことです。
(参考 THE GOLD ONLINE『2025年7月からAIによる相続税調査がスタート!相続税“調査率5%”の裏で迫るAIの目。「申告したら終わり」では済まされない新たな調査体制とは【国際税理士が解説】』)
(参考 日本経済新聞社「相続税もAIが調査へ 国税、申告漏れスコア化で狙い絞る」)

団塊世代の高齢化で相続件数が急増へ

今年度には団塊世代が75歳以上となり,今後相続件数が急増することが見込まれています。
従来の調査体制では対応が難しくなるため,調査効率の向上を目的にAIの導入が進められているという背景があります。


実際の相続税調査の割合は?

令和5事務年度における相続税の課税割合は9.9%ですが,そのうちの調査実績は以下のとおりです:

・簡易な接触:約12.0%
(=簡易な接触件数/申告書の提出に係る被相続人数)

・実地調査:約5.5%
(=実地調査件数/申告書提出人数)

(参考 国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」「令和5年分相続税の申告事績の概要」)

「申告すれば安心」ではない時代に

今後は,たとえ申告をしたとしても,AIの目によってリスクが高いと判断されれば,調査の対象になるという時代になってきます。


早めの対策と専門家相談を

今後,AIによる調査体制が本格化する中では,「とりあえず申告しておけば大丈夫」とは言い切れなくなります。
税理士などの専門家と連携し,正確な評価と適切な資料整理を心がけましょう。

相続税の申告忘れや軽視は,後のトラブルや追徴課税につながる可能性もありますので,くれぐれもご注意ください。