不動産登記の所有者にメールアドレス登録

令和7年4月から,土地建物の新たな所有者(例:売買による買主や相続人など)に対し、以下の情報(検索用情報)の登録が求められるようになります。

  • メールアドレス
  • 名前とそのふりがな
  • 生年月日
  • 住所

登録の目的と背景

この制度の導入背景は,令和8年度からの住所変更登記の義務化にあります。

令和8年4月からは,不動産の所有者に住所変更があった場合,2年以内に住所変更登記を行うことが義務付けられます。

この義務化に伴い,メールアドレスの登録をしておけば,住所変更があった際に以下の流れで登記手続きが進められます。

  1. 法務局からメール通知が届く
  2. 所有者が変更内容を確認・了承
  3. 登記官が職権で住所変更登記を自動的に実施(予定)

これにより,手続きの簡略化住所変更漏れの防止が期待できます。
(参考:法務省「令和7年4月21日以降にする所有権の保存・移転等の登記の申請について」)


今後の手続きについて

今後,所有権に関する不動産の登記手続きを行う際には,司法書士が新たな所有者(例:買主や相続人)に対し,事前に以下の情報を確認することになります。

  • 登録するメールアドレス
  • メールアドレスのふりがな
  • 名前のふりがな

注意点

  • 登録したメールアドレスに誤りがあると,通知が届かなくなるため,慎重な情報提供が求められます。
  • 住所変更登記の義務に違反した場合,罰則規定の適用がされる可能性が出てきます。

まとめ

この新制度は,不動産の管理をより円滑に行うためのものです。
特に不動産を新たに取得される場合には,メールアドレスの事前登録にご協力いただくよう,よろしくお願いいたします。
不明点がある場合は,司法書士などの専門家に早めにご相談ください。


司法書士・土地家屋調査士用のふりがな変換ツール

令和7年4月から始まる土地建物所有者のメールアドレスの登録では,「ふりがな」の登録が義務化されるため,入力の効率化や誤入力防止のためのツールが登場しています。

ツール例

ツール名:「メールアドレスのフリガナ生成ツール」
Webベースで利用でき,メールアドレスを入力するとふりがなを生成してくれます。

旧ツイッターで公開されたツール

 開発者:@HinjakuGunsou
 ツール名:「メアドフリガナ変換.xlsm
 Excelマクロ形式で,メールアドレスから自動的にふりがなを生成するものです。

・サイト形式で提供されているツール

提供元:AdRegion Inc.「メールアドレスのフリガナ生成ツール


当職においては,Excelのマクロを使用せず,関数のみで構成した「メールアドレスからふりがなを生成するツール」を作成しました。マクロがないほうが,セキュリティ的にも安心であり,マクロの設定も必要ありません。(Web上での公開の予定はありません)

相続登記義務化により件数が増加

令和6年4月に施行された相続登記の義務化に伴い,全国で相続登記の件数が増加しているとのことです。
(参考:朝日新聞社「相続登記の義務化で件数『1割増』 最大10万円の過料の運用方針は」)


相続登記義務化の概要

この法律では,相続が発生した場合,相続人は原則として相続開始から3年以内に登記を申請しなければならないと定められています。
義務の施行前のものについての実際の期限は,令和9年3月末までとされていますが、それまでに対応しない場合,10万円以下の過料が課される可能性があります。


相続登記にかかる時間と費用

相続登記の手続きは,場合によっては次のような理由で時間と費用がかかります。

  • 書類収集
    戸籍謄本や印鑑証明書,評価証明書など,手続きに必要な書類の準備に時間を要する。
  • 費用負担
    登録免許税(固定資産税評価額の0.4%,非課税措置も一部あり)
    司法書士への報酬(依頼内容や地域によるが数万円~数十万円)
    他の相続人への代償金や謝礼など
  • 相続人間の調整
    相続人が複数いる場合,遺産分割協議に時間がかかることもある。

早めの準備が重要な理由

  1. 負担軽減
    義務化期限が近づくほど手続きが集中し,司法書士や役所への依頼が混雑する可能性があります。余裕を持って進めることで負担を軽減できます。
  2. 過料リスクの回避
    過料は1件あたり最大10万円とされており,これが相続財産ごとに適用される可能性もあります。忘れずに対応することが重要です。
  3. 家族への影響の最小化
    相続登記を放置すると,次世代の相続人にさらに複雑な手続きを強いる結果となります。

まとめ

相続登記は,義務化によって手続きの重要性が一層増しましたが,早めに対応することで負担を軽減し,将来的なトラブルを避けることができます。
「まだ時間がある」と思わず,相続発生時には速やかに手続きの準備を進めましょう。必要に応じて,司法書士に相談するのも有効な手段です。


養子縁組前に出生した子でも代襲相続権のある場合がある

以前の記事で解説したように,通常,養子縁組前の養子の子には代襲相続権が認められないのが原則です。
(参考:「直系尊属が一部重なる養子縁組でも親が異なる場合は代襲相続権はない」)
これは民法第727条や大審院昭和6年(オ)第2939号の判決(昭和7年5月11日)にも基づくものです。

特別なケース:養子縁組前の養子の子が代襲相続人となる場合

一方で、弁護士の関口郷思先生が旧ツイッター(現X)で解説されているように,養子縁組前の養子の子であっても,次の条件を満たす場合には代襲相続人となります。

条件:その子のもう一方の親(血縁上の親)の直系尊属が相続人である場合
(下記参照)

養子縁組をした者の養子が養子縁組前に子をもうけていたとします。

養子が先に亡くなっており,養子の子のもう片方の親の直系尊属が相続人に該当する場合,養子の子は代襲相続人として扱われます。

この場合,代襲相続人の相続権は法定相続分に基づき4分の1になります。


まとめ

養子縁組における相続権は複雑なケースが多く,通常は養子縁組後の血縁関係を重視した取り扱いがされます。しかし,上記のような特例的な状況では,例外として代襲相続権が認められることもあります。
相続手続きの際には,個別のケースについて法律の専門家に相談することをお勧めします。

直系尊属が一部重なる養子縁組でも親が異なる場合は代襲相続権はない

令和6年11月12日に最高裁判所第三小法廷で下された判決により,被相続人の親の養子縁組による兄弟姉妹の子(養子縁組前に出生)が代襲相続権を持たないという判断が示されました。この判決は,相続法の適用範囲における重要な判例として注目されています。

(図 被相続人の義理の兄弟姉妹の子の代襲相続権はなし)

判決の概要

  1. 争点
    被相続人の義理の兄弟姉妹の子が代襲相続人となるかが争点となりました。具体的には,養子縁組が成立する前に生まれた子(養子縁組前の子)が,被相続人の兄弟姉妹の代襲相続人となる資格を有するかが問われました。
  2. 最高裁の判断
    養子縁組前に生まれた子については,たとえ被相続人の兄弟姉妹と祖父母が同じ傍系尊属であっても,代襲相続権は認められないと結論付けられました。
    • 法的背景: 民法上,代襲相続は「被相続人の直系卑属」または「被相続人の兄弟姉妹の直系卑属」に認められるものであり(民法第887条,第889条第3項),養子縁組により新たに形成された法的親族関係は,縁組後に限り効力を持つと解釈されました。
      【民法第727条,大審院昭和6年(オ)第2939号,昭和7年5月11日判決】

意義と影響

今回の判決は,代襲相続人の範囲を明確化し,相続法の適用範囲における制限を示す重要な判断です。養子縁組の効力が縁組後に生じるという原則が再確認され,代襲相続の範囲が明確に限定されました。

結論

代襲相続人が広がるかもしれない判断がされるかと思われましたが,今回は養子縁組前に生まれた子の代襲相続権は,祖父母が同じ傍系尊属であっても明確に認められないことになります。
(参考 日本経済新聞社【養子縁組後の遺産、親に代わり相続「できず」 最高裁】)

相続放棄の重要性と注意点:熟慮期間と早めの対策を

相続放棄は,故人の財産や負債を一切相続しないための非常に有効な手段です。しかし,法律では,相続が始まったことを知ったときから3か月以内(熟慮期間)に相続放棄の手続きを行わなければなりません。
(参考:民法第915条第1項)

熟慮期間が短い理由とリスク

一般的なケースでは,故人が亡くなってから3か月はあっという間に過ぎてしまいます。熟慮期間が短いため,相続放棄をするかどうか迷っている間に期間が経過し,放棄の手続きができなくなってしまうことも少なくありません。特に,故人が多額の負債を抱えていた場合,それを相続してしまうリスクが高まります。

負債の発見後の対応と判例

故人が亡くなってからしばらく経って,突然多額の負債や法律上の支払い義務が発見されるケースもあります。このような場合,判例では,相続の開始があったことを知ったときではなく,「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべき」から熟慮期間が始まるとされています。
最高裁判所昭和59年4月27日第三小法廷判決 事件番号昭和57(オ)82

つまり,故人の借金や法律上の義務を認識してから3か月以内が相続放棄の期限となります。ただし,この期間もあっという間に過ぎてしまうため,迅速な対応が求められます。

注意すべき合意と専門家のサポート

安易に他の相続人に債務の引受をお願いする合意を行うと,後になってから自分に債務が生じる可能性もあります。そのため,相続放棄の判断はできるだけ早めに行い,必要に応じて司法書士や弁護士に相談することを強くお勧めします。

相続放棄の手続きを進めることで,不必要な負担を回避し,安心して相続手続きを進めることができるでしょう。

養子の子の代襲相続権の有無

被相続人が亡くなり,相続が発生した際に,すでに養子が亡くなっている場合には,その養子に子がいるかどうかで相続する権利について考えなければならないことが生じます。養子の子が代襲相続権を持つかどうかは,養子縁組が行われた時期によって異なります。

具体的には,次の2つのケースで相続権の有無が決まります。

  1. 養子縁組が養子の子の出生前に行われている場合
    養子が先に亡くなっており,養子の子が存在する場合,養子の子には代襲相続権が認められます。この場合,養子の子は被相続人の孫として相続を受けることができます。
  2. 養子縁組が養子の子の出生後に行われている場合
    この場合,養子の子には代襲相続権はありません。つまり,養子が亡くなっていても,その子は被相続人の財産を相続する権利を持ちません。
    (民法887条2項但書,参考 国税庁「養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権の有無」)

代襲相続権の有無は,養子縁組のタイミングに依存しているため,相続に関する問題を適切に処理するためには,養子縁組の日付と養子の子の出生の日付を確認することが重要です。

・養子縁組前に出生→養子の子は直系卑属→代襲相続権がない
・養子縁組後に出生→養子の子は傍系卑属→代襲相続権がある

しかしながら,養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権が最高裁判所で争われているようです。
(参考 最高裁判所広報課「不動産登記申請却下処分取消請求事件について」)

経験的に見ると,兄弟姉妹の子(甥や姪)が成人してから養子になるケースは少なくありません。この場合,養子縁組が養子の子の出生後に行われていることが多いため,代襲相続権を認められないケースが多数存在する可能性があります。

また,このようなケースの場合,相続人や家族が誤解する可能性もあり,相続手続きにおいてトラブルが生じることも考えられます。したがって,代襲相続に関する法律や判決の内容を正確に理解することが重要ですし,今後,影響を受ける人が多くなることも予想されるでしょう。

遺産分割によらない共有不動産の怖さ

遺産分割協議と相続登記を早めに実施しなければ,争っている相続人から困難(嫌がらせの方法)を与えられることになりかねません。

法定相続人が複数いる場合に,管理を容易にするため,1件の不動産は所有者を1名にする等,なるべく少ない所有者(共有者)となる遺産分割協議をしたほうがよいとされています。
(参考 法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」30頁 見直しの契機としての所有者不明土地問題)

ところが相続登記をしていない場合に,その不動産の持分を買い取る業者も一定数存在しています。買取業者は,一部の相続人が持分を他の相続人との協議なしに転売して利益を得たいというニーズを利用し,法定相続分の買取りを行うのです。結果,転売された持分は,他の相続人では戻せなくなってしまいます。また,持分の買取業者が以下のことを行う可能性が高いです。

 ・実際利用している相続人や相続権のない利用者に「家賃の請求」
  (例 民法第249条第2項 共有者の使用対価)
 ・管理権を行使し,他の相続人へ「管理費用の請求」
  (民法第253条第1項)
 ・共有物分割を請求し,「代償分割費用の請求」,他の不動産を「現物分割の請求」 
  (民法第256条第1項)
 ・管理費用に基づく償金に代わる「持分の引渡し請求」 
  (民法第253条第2項)

共有不動産の買取業者が関わってくると非常に厄介となりますので,早めの「遺産分割協議」と「相続登記」,相続人間で強い争いがあらかじめ予想される場合には,「遺言書の作成」を強くおすすめいたします。
 

相続登記の義務化になったからこその生前対策

土地や建物などの不動産の相続登記が義務化となり,相続人の誰か(または誰から複数人)がその不動産を受け継ぐことが比較的明確になるようになりました。

不動産にある程度の価値があれば,利用できたり,資産として持っていて安心といったこともあるのかもしれませんが,地方の場合には不動産に価値がない場合も少なくなく,相続しても負担の増すだけということもあります。

実際価値の少ない不動産を相続してしまった場合の,相続対策はあまり選択の余地がなく,泣く泣く固定資産税を払ったり,多額の管理費用を負担する場合も少なくありません。そこで,生きているうちにできることをするという,いわゆる「生前対策」を検討していくのもひとつの選択肢となります。

そこで,生前対策を負担の少ない順番で列挙してみます。

負 ・現在の登記の調査,地図の調査
担 ・エンディングノート作成
↓↓ ・遺言書作成
  ・賃貸借契約
  ・休眠担保の解除・抹消
  ・境界確定,分合筆,地目変更
  ・家族間の贈与,他人間の贈与,共有物分割
  ・家族信託,その他の信託
  ・売却や処分
  ・アパート建築等による税対策
  ・不動産管理会社の設立,不動産財産の法人化

今までのご依頼いただいた相続人様におかれましても,被相続人様が生前対策を全くされていない場合も少なくありません。相続登記義務化になるまでは,多少相続後の負担が見込まれる場合でも,見て見ぬふりができました。今後は,できる範囲で生前対策をされてみるのも検討してみてください。

火葬費用の高騰

公的部門の民営化や指定管理者制度のひとつの弊害なんでしょうか。

東京都の火葬費用が9万円に達しているという記事がありました。
(東京新聞【「費用が高くて」火葬を拒む遺族も 東京23区内の特殊事情とは 関係者「別れの機会奪うなら…切ない」】)
(日本経済新聞社「東京の火葬料、千葉の15倍 民営がコスト増を積極転嫁」)

高騰の理由としては,大手の民間業者の寡占状態となっていることや,価格設定に許認可がないこと等があるようです。燃料費や人件費の高騰はあるのものの,価格の設定が利益の拡大を目的としているいう意見もあります。宗教的な理由を除けば,ほとんどの人が通る道でもあり,公的な性格も強いため,さらなる価格が上昇を懸念せざるを得ません。

ちなみに長野市では15,000円(参考 長野市役所「斎場(火葬場)」)だそうです。

相続放棄の申述件数が毎年増加

最高裁判所発表の相続放棄の申述受理件数が令和5年度で,282,758件で,令和4年度と比較して,22,288件増になったようです。
(最高裁判所事務総局「令和5年 司法統計年報 3家事編」6頁)

相続放棄の理由としては,昔から負債総額が大きいときに選択されることが多いのですが,そのほかに,いわゆる「負の不動産」といわれる,処分や維持の難しい不動産から逃れようとしている場合も多いです。
(参考:FNN「【実家の相続を放棄したい理由ランキング】経験者201人アンケート調査」)

相続放棄の申述は,申立の可能期間が3か月以内となっているため,早めに結論を出して,早めに司法書士や弁護士にご依頼ください。