養子の子の代襲相続権の有無

被相続人が亡くなり,相続が発生した際に,すでに養子が亡くなっている場合には,その養子に子がいるかどうかで相続する権利について考えなければならないことが生じます。養子の子が代襲相続権を持つかどうかは,養子縁組が行われた時期によって異なります。

具体的には,次の2つのケースで相続権の有無が決まります。

  1. 養子縁組が養子の子の出生前に行われている場合
    養子が先に亡くなっており,養子の子が存在する場合,養子の子には代襲相続権が認められます。この場合,養子の子は被相続人の孫として相続を受けることができます。
  2. 養子縁組が養子の子の出生後に行われている場合
    この場合,養子の子には代襲相続権はありません。つまり,養子が亡くなっていても,その子は被相続人の財産を相続する権利を持ちません。
    (民法887条2項但書,参考 国税庁「養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権の有無」)

代襲相続権の有無は,養子縁組のタイミングに依存しているため,相続に関する問題を適切に処理するためには,養子縁組の日付と養子の子の出生の日付を確認することが重要です。

・養子縁組前に出生→養子の子は直系卑属→代襲相続権がない
・養子縁組後に出生→養子の子は傍系卑属→代襲相続権がある

しかしながら,養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権が最高裁判所で争われているようです。
(参考 最高裁判所広報課「不動産登記申請却下処分取消請求事件について」)

経験的に見ると,兄弟姉妹の子(甥や姪)が成人してから養子になるケースは少なくありません。この場合,養子縁組が養子の子の出生後に行われていることが多いため,代襲相続権を認められないケースが多数存在する可能性があります。

また,このようなケースの場合,相続人や家族が誤解する可能性もあり,相続手続きにおいてトラブルが生じることも考えられます。したがって,代襲相続に関する法律や判決の内容を正確に理解することが重要ですし,今後,影響を受ける人が多くなることも予想されるでしょう。

遺産分割によらない共有不動産の怖さ

遺産分割協議と相続登記を早めに実施しなければ,争っている相続人から困難(嫌がらせの方法)を与えられることになりかねません。

法定相続人が複数いる場合に,管理を容易にするため,1件の不動産は所有者を1名にする等,なるべく少ない所有者(共有者)となる遺産分割協議をしたほうがよいとされています。
(参考 法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」30頁 見直しの契機としての所有者不明土地問題)

ところが相続登記をしていない場合に,その不動産の持分を買い取る業者も一定数存在しています。買取業者は,一部の相続人が持分を他の相続人との協議なしに転売して利益を得たいというニーズを利用し,法定相続分の買取りを行うのです。結果,転売された持分は,他の相続人では戻せなくなってしまいます。また,持分の買取業者が以下のことを行う可能性が高いです。

 ・実際利用している相続人や相続権のない利用者に「家賃の請求」
  (例 民法第249条第2項 共有者の使用対価)
 ・管理権を行使し,他の相続人へ「管理費用の請求」
  (民法第253条第1項)
 ・共有物分割を請求し,「代償分割費用の請求」,他の不動産を「現物分割の請求」 
  (民法第256条第1項)
 ・管理費用に基づく償金に代わる「持分の引渡し請求」 
  (民法第253条第2項)

共有不動産の買取業者が関わってくると非常に厄介となりますので,早めの「遺産分割協議」と「相続登記」,相続人間で強い争いがあらかじめ予想される場合には,「遺言書の作成」を強くおすすめいたします。
 

相続登記の義務化になったからこその生前対策

土地や建物などの不動産の相続登記が義務化となり,相続人の誰か(または誰から複数人)がその不動産を受け継ぐことが比較的明確になるようになりました。

不動産にある程度の価値があれば,利用できたり,資産として持っていて安心といったこともあるのかもしれませんが,地方の場合には不動産に価値がない場合も少なくなく,相続しても負担の増すだけということもあります。

実際価値の少ない不動産を相続してしまった場合の,相続対策はあまり選択の余地がなく,泣く泣く固定資産税を払ったり,多額の管理費用を負担する場合も少なくありません。そこで,生きているうちにできることをするという,いわゆる「生前対策」を検討していくのもひとつの選択肢となります。

そこで,生前対策を負担の少ない順番で列挙してみます。

負 ・現在の登記の調査,地図の調査
担 ・エンディングノート作成
↓↓ ・遺言書作成
  ・賃貸借契約
  ・休眠担保の解除・抹消
  ・境界確定,分合筆,地目変更
  ・家族間の贈与,他人間の贈与,共有物分割
  ・家族信託,その他の信託
  ・売却や処分
  ・アパート建築等による税対策
  ・不動産管理会社の設立,不動産財産の法人化

今までのご依頼いただいた相続人様におかれましても,被相続人様が生前対策を全くされていない場合も少なくありません。相続登記義務化になるまでは,多少相続後の負担が見込まれる場合でも,見て見ぬふりができました。今後は,できる範囲で生前対策をされてみるのも検討してみてください。

火葬費用の高騰

公的部門の民営化や指定管理者制度のひとつの弊害なんでしょうか。

東京都の火葬費用が9万円に達しているという記事がありました。
(東京新聞【「費用が高くて」火葬を拒む遺族も 東京23区内の特殊事情とは 関係者「別れの機会奪うなら…切ない」】)
(日本経済新聞社「東京の火葬料、千葉の15倍 民営がコスト増を積極転嫁」)

高騰の理由としては,大手の民間業者の寡占状態となっていることや,価格設定に許認可がないこと等があるようです。燃料費や人件費の高騰はあるのものの,価格の設定が利益の拡大を目的としているいう意見もあります。宗教的な理由を除けば,ほとんどの人が通る道でもあり,公的な性格も強いため,さらなる価格が上昇を懸念せざるを得ません。

ちなみに長野市では15,000円(参考 長野市役所「斎場(火葬場)」)だそうです。

相続放棄の申述件数が毎年増加

最高裁判所発表の相続放棄の申述受理件数が令和5年度で,282,758件で,令和4年度と比較して,22,288件増になったようです。
(最高裁判所事務総局「令和5年 司法統計年報 3家事編」6頁)

相続放棄の理由としては,昔から負債総額が大きいときに選択されることが多いのですが,そのほかに,いわゆる「負の不動産」といわれる,処分や維持の難しい不動産から逃れようとしている場合も多いです。
(参考:FNN「【実家の相続を放棄したい理由ランキング】経験者201人アンケート調査」)

相続放棄の申述は,申立の可能期間が3か月以内となっているため,早めに結論を出して,早めに司法書士や弁護士にご依頼ください。

デジタル資産や暗号資産の相続はわかりづらい

故人の資産の保管場所を相続人に教えておかない場合も多いです。

集英社にデジタル資産の相続税の申告忘れの記事がありました。
参照 集英社オンライン:【現代の相続問題で一番気をつけるべきは「デジタル資産」。申告忘れには加算税や延滞税が上乗せされる…相続専門税理士が指摘する3つの問題点とは

故人の資産のうち,デジタル資産や暗号資産を知らないところで探すということは,とてつもなく大変なことです。書面の取引であれば,四半期に1回程度,有価証券の取引履歴が証券会社や信託銀行から送付されてきたり,銀行の通帳があったりしますが,デジタル資産や暗号資産の場合には,契約から取引履歴まて,オンライン上で完結している場合も多く,すぐに探し出すというわけにはいきません。
(例 SBI証券「電子交付」,松井証券「取引しましたが取引報告書等が送られてきません。」)

探すことに着手するにしても,金融機関数だけでも,1,382件程度。(2024年5月31日現在 日本金融通信社:「最新の業態別金融機関数」)その中でもネット銀行にあたる,その他銀行だけでも15行,証券会社で271法人も存在するため,調査するにもなかなかの労力と費用がかかります。
また,暗号資産取引所も32社(2024年6月3日現在)あるそうです。(日本暗号資産取引業協会「統計情報」)

できれば,デジタル資産をお持ちのかたは,「エンディングノート」等(参考:長野地方法務局/長野県司法書士会「エンディングノートを作成しました」)を活用していただき,デジタル資産や暗号資産の口座の取引先を1年に1回程度記録しておいたほうがよいかと思います。

参考までに,暗号資産は,故人の相続人が請求しないと消滅時効にかかることもあります。(参考 日本暗号資産取引業協会:「暗号資産取引業における主要な経理処理例示」Ⅲ 経理処理等)その場合は,多額の暗号資産を喪失することもありますので,注意が必要です。

全国の自治体で本籍地以外の戸籍がとれるようになったのは楽ではあるが

戸籍のシステムで障害が相次いでいるようです。
(朝日新聞:「戸籍システムで障害3カ月、全国で影響 職員が電話で穴埋め」)

処理エラーが発生しているだけでなく,本籍地以外で出力した場合,データの更新漏れもあり,本籍地以外の自治体の職員が,本籍地の自治体に電話確認しているとのことです。

本籍地以外で戸籍謄本を取れるようになったことにより,利用者にとっては相続手続きに際して劇的に利便性が向上したので,今後戸籍システム自体の安定化により,戸籍謄本をスムーズに取得できるようになってほしいものです。

遺言書の遅い発見により,遺言が無意味に

相続回復請求権が認められないという最高裁判決がありました。

遺言書が相続から10年以上あとに見つかった場合には,それより前に遺言書と違う内容で相続した相続人の遺産は,時効取得によりそのまま遺言書と違う内容による相続が認められる判決がありました。
令和6年3月19日最高裁第三小法廷 事件番号: 令和4(受)2332

本来相続は,一般承継といって被相続人の権利義務をそのまま引き継ぐため,相続独自の時効取得を認めるかどうかは,否定する判決も多いです。(例 昭和54年4月17日最高裁第三小法廷

今回の件は,遺言書の遅い発見による場合には,時効取得を認めて,遺言書の効果を否定したかたちです。

相続回復請求権は,知ってから5年,相続開始から20年という民法の規定(民法第884条)があるところ,遺言書の発見が遅れた場合には,他の相続人の相続財産の占有から10年で時効取得となってしまい,この20年の規定が無意味になってしまいますので,注意が必要です。

相続登記義務化による過料のお知らせがやってくるかも

相続登記義務化に伴い,相続登記をしておかなければ,いつか過料のお知らせがやってくるようです。そこで,この過料事件の手続きについて確認してみましょう。

登記の法律に基づく過料となる違法行為が法務局により発見された場合には法務局の登記官から地方裁判所に通知されます。
(不動産登記規則第187条,商業登記規則第118条)

違法行為の嫌疑をいだくきっかけを「端緒」(たんちょ)といいますが,相続登記義務化に伴う端緒については,通達により,以下に定められています。

  1. 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき
  2. 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき
    令和5年9月12日 法務省民二第927号 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係(通達)】

この端緒後,登記官は「申請の催告」(相続登記の申請を促す)をするようです。催告後に申請をしたり,一定の正当な理由(相続人多数,相続人の争い,重病,DVによる避難,経済的困窮等が挙げられています)があれば,過料制裁は受けないとのことです。

登記官の催告に基づいて申請を行ったり,経済的困窮を理由としてできない旨を回答すれば,過料制裁を逃れることができるため,「3年以内」という期間制限(改正不動産登記法第76条の3第1項,第2項)の実効性は,やや疑問が残るところです。

相続登記義務化の期限

相続登記の登記義務の期間について,整理しました。

相続登記義務化の法律が本年4月から施行されます。このルールには罰則規定があり,登記が遅れると10万円以下の過料を受ける可能性があります。

この義務の「期限」に関する問い合わせが多いため,一応メモとしてまとめました。
(4月施行以降に通達等で変更される可能性はあります。)

3年は,「相続の開始」と不動産を相続で「取得」したことを「知った日」から起算(改正不動産登記法 第76条の2第1項)
 不動産の存在を知らなかったり,被相続人と離れて生活していて,相続開始を知らなかった場合には,被相続人の亡くなった日が「知った日」とはなりそうもないです。

遺産分割協議があった場合には,「遺産分割をした日」から3年以内
(同条第2項)

本年4月1日より前に相続を知ったものについては,施行日から3年の「令和9年3月31日」まで
 (令和三年四月二八日法律第二四号 改正不動産登記法 附則第5条第6項)
 法律改正前の相続については,「知った日」か「施行日」のいずれか「遅い日」になります。

つまり,現在相続の登記をしていない不動産の登記の期限は,3年後に到来することになります。