相続税調査にAI導入・申告後も“AIの目”に要注意

令和7年(2025年)7月から,いよいよ相続税調査にAIが本格導入される予定です。
これまで人の目と経験に頼っていた税務調査が,データ分析に基づくスコア評価に移行しつつあります。


国税庁,AIで相続税の申告内容をスコア化

国税庁は,相続税の申告データを集約し,申告内容に基づいて「税務リスクスコア」を算出,このスコアをもとに税務署が実地調査を行うかを判断する仕組みに移行するとのことです。
(参考 THE GOLD ONLINE『2025年7月からAIによる相続税調査がスタート!相続税“調査率5%”の裏で迫るAIの目。「申告したら終わり」では済まされない新たな調査体制とは【国際税理士が解説】』)
(参考 日本経済新聞社「相続税もAIが調査へ 国税、申告漏れスコア化で狙い絞る」)

団塊世代の高齢化で相続件数が急増へ

今年度には団塊世代が75歳以上となり,今後相続件数が急増することが見込まれています。
従来の調査体制では対応が難しくなるため,調査効率の向上を目的にAIの導入が進められているという背景があります。


実際の相続税調査の割合は?

令和5事務年度における相続税の課税割合は9.9%ですが,そのうちの調査実績は以下のとおりです:

・簡易な接触:約12.0%
(=簡易な接触件数/申告書の提出に係る被相続人数)

・実地調査:約5.5%
(=実地調査件数/申告書提出人数)

(参考 国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」「令和5年分相続税の申告事績の概要」)

「申告すれば安心」ではない時代に

今後は,たとえ申告をしたとしても,AIの目によってリスクが高いと判断されれば,調査の対象になるという時代になってきます。


早めの対策と専門家相談を

今後,AIによる調査体制が本格化する中では,「とりあえず申告しておけば大丈夫」とは言い切れなくなります。
税理士などの専門家と連携し,正確な評価と適切な資料整理を心がけましょう。

相続税の申告忘れや軽視は,後のトラブルや追徴課税につながる可能性もありますので,くれぐれもご注意ください。

相続登記は自分でできる?──実は落とし穴も

最近,「相続登記を自分でやってみようと思うのですが……」というご相談を行政相談等でいただくことがあります。

確かに,ある条件がそろえば,ご自身で手続きを進めることも可能です。その条件とは,主に以下の3つが考えられます。

◆ 自分でできるのはこんな場合

1.とにかく時間がある
 役所や法務局に何度か足を運び,書類を集めるだけの時間的な余裕があること。

2.必要な書類がある程度作成できる
 職場等で経験があることにより,戸籍謄本などを読み解き,登記申請書や遺産分割協議書などを正しく作成できること。

3.相続の内容がシンプルである
 相続人が少なく,遺産も土地や建物が数件程度など,被相続人の名義が正確である等,複雑でないこと。

これら3つの条件がそろっていれば,なんとか自力で相続登記を行うことも可能かもしれません。

とはいえ,実際には次のようなリスクもあります。

◆ よくある注意点とリスク

登記漏れのリスク
 不動産を一部見落として登記し忘れると,後になって「名義が故人のまま」と発覚することがあります。時間が経つほど手続きが複雑になりがちです。

● 法律判断が必要な場面
 相続人に代襲相続がある,遺産に共有持分がある,先々代の相続など,専門的な判断が必要なケースでは,誤った処理をしてしまうおそれがあります。

● 書類の収集・作成が大変
 戸籍謄本や住民票,評価証明書の取得,登記申請書の作成など,慣れていないと苦労する作業も多くあります。

● 手続きに時間がかかる
 準備から申請完了までには時間がかかり,平日に動く必要があるため,仕事や家庭との両立が難しいことも。

● やり直しが難しいケースもあります
 相続登記は,一度申請して完了すると,あとから簡単に修正はできません。

たとえば…
・不動産の一部を登記し忘れていた
・間違った分け方で登記してしまった
・協議書の内容に不備があった

といった場合は,相続人全員で再協議を行い,新たに書類を作り直す必要が出てきます。時間が経てば経つほど,協議が難航したり,相続人の所在が分からなくなるリスクもあります。費用負担が発生する(結局司法書士に依頼する,相続税・贈与税を過大に支払う等)のおそれもあります。

◆ 司法書士に相談する安心感

こうしたトラブルを防ぐためにも,最初の段階で司法書士に相談するのがおすすめです。必要な資料の確認から,正確な書類作成,申請手続きまで,しっかりサポートいたします。

当事務所では,相続登記に関するご相談を随時受け付けております。お気軽にご相談ください。

親がしている相続準備と,子どもがしてほしい相続準備のズレとは?

相続に備えて,親が行っている準備と,子どもが望んでいる準備には意外なズレがあるようです。このことについて,マイナビニュースにて興味深い調査結果が発表されていました。
(参考:マイナビニュース「親がしてくれている相続準備、1位は? 『遺言書作成』は2位」)


親がしている相続準備(上位3つ)

  1. 書類の保管場所の告知
  2. 遺言書の作成
  3. 資産のリスト化

子どもがしてほしい相続準備(上位3つ)

  1. 資産のリスト化
  2. 生前贈与
  3. 遺言書の作成

双方にズレがある理由は?

子どもの側では,単に「書類の保管場所を知るだけ」では不十分と考えていることがわかります。
近年では,通帳のないネット銀行口座、ネット証券口座、暗号資産(仮想通貨)などを持っている方も増えており,資産をリスト化しておかないと,相続人が存在を知らないままになってしまうリスクがあるからです。


「生前贈与」については慎重に

また、子ども側の希望には「生前贈与」もランクインしていますが,注意が必要です。
生前贈与は

  • 贈与税の税率が相続税よりも一般的に高額
  • 相続時精算課税制度を使うと,手続きが煩雑になる

などの理由から,慎重な検討が必要です。不利になることも多いです。


まとめ

どちらの立場にとっても,「資産リストの作成」と「遺言書の整備」は今後ますます重要になりそうです。
事前の準備で,家族間のトラブルや余計な負担を防ぐことができるので,早めに取り組んでおくことをおすすめします。

上場株式の評価と“通達6項”の影響

不動産や非上場株式など,評価の難しい遺産には,一定の評価基準が定められています。


🔹評価の基本ルール


🔹通達6項とは?

国税には「財産評価基本通達 総則6項」という特例があり,
通常の評価が困難な場合,国税庁長官の指示で別の評価が可能とされています。


🔹実際の適用事例


🔹今後の見通し

このような判例の続出により,通達の見直しが検討されている可能性もあるとのこと。
評価方法によって相続税額が大きく変わるため,慎重な対応が必要になりそうです。


気になる方は,税理士等の専門家への早めの相談をおすすめします。

国庫に入る遺産が過去最高1,000億円超

令和5年度に相続人がいない遺産が国庫に帰属した総額が1,015億円に達したとのことです。
(日経新聞社【国庫に入る「相続人なき遺産」、初の1000億円超 23年度】)

遺産が国庫に入るというのは,子や孫,兄弟姉妹がいない方が遺言書を作成していなかったために発生したケースや,相続人全員から相続放棄した場合に発生します。
この場合には,相続財産清算人が選任され,債務や税金の支払いを終えた後,行き先のない財産が国庫に帰属するという流れになります。

◆遺言書の重要性
1,000億円を超える財産が国に帰属したということは,それだけの資産が遺言書で 特定の人や団体に遺贈される機会を失ったともいえます。

もし,身近に相続人がいなくても,
親しい友人や知人にのこす
お世話になった団体へ寄付する(公益法人・NPOなど)
地域貢献のために自治体や地域団体に寄付する
といった形で,遺産を生かす方法は多くあります。

特に,近年では 「遺贈寄付」 への関心も高まっており,遺言書を活用して社会貢献を行う ことも可能です。

「自分には相続人がいないから…」とあきらめず,自分の財産をどう活用するかを共に考え,遺言書を作成することが重要かと思います。

不動産登記の所有者にメールアドレス登録

令和7年4月から,土地建物の新たな所有者(例:売買による買主や相続人など)に対し、以下の情報(検索用情報)の登録が求められるようになります。

  • メールアドレス
  • 名前とそのふりがな
  • 生年月日
  • 住所

登録の目的と背景

この制度の導入背景は,令和8年度からの住所変更登記の義務化にあります。

令和8年4月からは,不動産の所有者に住所変更があった場合,2年以内に住所変更登記を行うことが義務付けられます。

この義務化に伴い,メールアドレスの登録をしておけば,住所変更があった際に以下の流れで登記手続きが進められます。

  1. 法務局からメール通知が届く
  2. 所有者が変更内容を確認・了承
  3. 登記官が職権で住所変更登記を自動的に実施(予定)

これにより,手続きの簡略化住所変更漏れの防止が期待できます。
(参考:法務省「令和7年4月21日以降にする所有権の保存・移転等の登記の申請について」)


今後の手続きについて

今後,所有権に関する不動産の登記手続きを行う際には,司法書士が新たな所有者(例:買主や相続人)に対し,事前に以下の情報を確認することになります。

  • 登録するメールアドレス
  • 名前のふりがな

注意点

  • 登録したメールアドレスに誤りがあると,通知が届かなくなるため,慎重な情報提供が求められます。
  • 住所変更登記の義務に違反した場合,罰則規定の適用がされる可能性が出てきます。

まとめ

この新制度は,不動産の管理をより円滑に行うためのものです。
特に不動産を新たに取得される場合には,メールアドレスの事前登録にご協力いただくよう,よろしくお願いいたします。
不明点がある場合は,司法書士などの専門家に早めにご相談ください。

(メールアドレスのふりがなは,手書きの登記申請書以外は不要となりましたので,その部分は削除しました。令和7年1月16日修正)


相続登記義務化により件数が増加

令和6年4月に施行された相続登記の義務化に伴い,全国で相続登記の件数が増加しているとのことです。
(参考:朝日新聞社「相続登記の義務化で件数『1割増』 最大10万円の過料の運用方針は」)


相続登記義務化の概要

この法律では,相続が発生した場合,相続人は原則として相続開始から3年以内に登記を申請しなければならないと定められています。
義務の施行前のものについての実際の期限は,令和9年3月末までとされていますが、それまでに対応しない場合,10万円以下の過料が課される可能性があります。


相続登記にかかる時間と費用

相続登記の手続きは,場合によっては次のような理由で時間と費用がかかります。

  • 書類収集
    戸籍謄本や印鑑証明書,評価証明書など,手続きに必要な書類の準備に時間を要する。
  • 費用負担
    登録免許税(固定資産税評価額の0.4%,非課税措置も一部あり)
    司法書士への報酬(依頼内容や地域によるが数万円~数十万円)
    他の相続人への代償金や謝礼など
  • 相続人間の調整
    相続人が複数いる場合,遺産分割協議に時間がかかることもある。

早めの準備が重要な理由

  1. 負担軽減
    義務化期限が近づくほど手続きが集中し,司法書士や役所への依頼が混雑する可能性があります。余裕を持って進めることで負担を軽減できます。
  2. 過料リスクの回避
    過料は1件あたり最大10万円とされており,これが相続財産ごとに適用される可能性もあります。忘れずに対応することが重要です。
  3. 家族への影響の最小化
    相続登記を放置すると,次世代の相続人にさらに複雑な手続きを強いる結果となります。

まとめ

相続登記は,義務化によって手続きの重要性が一層増しましたが,早めに対応することで負担を軽減し,将来的なトラブルを避けることができます。
「まだ時間がある」と思わず,相続発生時には速やかに手続きの準備を進めましょう。必要に応じて,司法書士に相談するのも有効な手段です。


養子縁組前に出生した子でも代襲相続権のある場合がある

以前の記事で解説したように,通常,養子縁組前の養子の子には代襲相続権が認められないのが原則です。
(参考:「直系尊属が一部重なる養子縁組でも親が異なる場合は代襲相続権はない」)
これは民法第727条や大審院昭和6年(オ)第2939号の判決(昭和7年5月11日)にも基づくものです。

特別なケース:養子縁組前の養子の子が代襲相続人となる場合

一方で、弁護士の関口郷思先生が旧ツイッター(現X)で解説されているように,養子縁組前の養子の子であっても,次の条件を満たす場合には代襲相続人となります。

条件:その子のもう一方の親(血縁上の親)の直系尊属が相続人である場合
(下記参照)

養子縁組をした者の養子が養子縁組前に子をもうけていたとします。

養子が先に亡くなっており,養子の子のもう片方の親の直系尊属が相続人に該当する場合,養子の子は代襲相続人として扱われます。

この場合,代襲相続人の相続権は法定相続分に基づき4分の1になります。


まとめ

養子縁組における相続権は複雑なケースが多く,通常は養子縁組後の血縁関係を重視した取り扱いがされます。しかし,上記のような特例的な状況では,例外として代襲相続権が認められることもあります。
相続手続きの際には,個別のケースについて法律の専門家に相談することをお勧めします。

直系尊属が一部重なる養子縁組でも親が異なる場合は代襲相続権はない

令和6年11月12日に最高裁判所第三小法廷で下された判決により,被相続人の親の養子縁組による兄弟姉妹の子(養子縁組前に出生)が代襲相続権を持たないという判断が示されました。この判決は,相続法の適用範囲における重要な判例として注目されています。

(図 被相続人の義理の兄弟姉妹の子の代襲相続権はなし)

判決の概要

  1. 争点
    被相続人の義理の兄弟姉妹の子が代襲相続人となるかが争点となりました。具体的には,養子縁組が成立する前に生まれた子(養子縁組前の子)が,被相続人の兄弟姉妹の代襲相続人となる資格を有するかが問われました。
  2. 最高裁の判断
    養子縁組前に生まれた子については,たとえ被相続人の兄弟姉妹と祖父母が同じ傍系尊属であっても,代襲相続権は認められないと結論付けられました。
    • 法的背景: 民法上,代襲相続は「被相続人の直系卑属」または「被相続人の兄弟姉妹の直系卑属」に認められるものであり(民法第887条,第889条第3項),養子縁組により新たに形成された法的親族関係は,縁組後に限り効力を持つと解釈されました。
      【民法第727条,大審院昭和6年(オ)第2939号,昭和7年5月11日判決】

意義と影響

今回の判決は,代襲相続人の範囲を明確化し,相続法の適用範囲における制限を示す重要な判断です。養子縁組の効力が縁組後に生じるという原則が再確認され,代襲相続の範囲が明確に限定されました。

結論

代襲相続人が広がるかもしれない判断がされるかと思われましたが,今回は養子縁組前に生まれた子の代襲相続権は,祖父母が同じ傍系尊属であっても明確に認められないことになります。
(参考 日本経済新聞社【養子縁組後の遺産、親に代わり相続「できず」 最高裁】)

相続放棄の重要性と注意点:熟慮期間と早めの対策を

相続放棄は,故人の財産や負債を一切相続しないための非常に有効な手段です。しかし,法律では,相続が始まったことを知ったときから3か月以内(熟慮期間)に相続放棄の手続きを行わなければなりません。
(参考:民法第915条第1項)

熟慮期間が短い理由とリスク

一般的なケースでは,故人が亡くなってから3か月はあっという間に過ぎてしまいます。熟慮期間が短いため,相続放棄をするかどうか迷っている間に期間が経過し,放棄の手続きができなくなってしまうことも少なくありません。特に,故人が多額の負債を抱えていた場合,それを相続してしまうリスクが高まります。

負債の発見後の対応と判例

故人が亡くなってからしばらく経って,突然多額の負債や法律上の支払い義務が発見されるケースもあります。このような場合,判例では,相続の開始があったことを知ったときではなく,「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべき」から熟慮期間が始まるとされています。
最高裁判所昭和59年4月27日第三小法廷判決 事件番号昭和57(オ)82

つまり,故人の借金や法律上の義務を認識してから3か月以内が相続放棄の期限となります。ただし,この期間もあっという間に過ぎてしまうため,迅速な対応が求められます。

注意すべき合意と専門家のサポート

安易に他の相続人に債務の引受をお願いする合意を行うと,後になってから自分に債務が生じる可能性もあります。そのため,相続放棄の判断はできるだけ早めに行い,必要に応じて司法書士や弁護士に相談することを強くお勧めします。

相続放棄の手続きを進めることで,不必要な負担を回避し,安心して相続手続きを進めることができるでしょう。