相続土地国庫帰属は,国庫への帰属率がわずか約3.6%

かなり厳しい数字です。

今日は,相続土地国庫帰属制度の11月の結果について考察します。
法務省から以下の数字が出ました。
(参考:法務省 令和5年12月28日「相続土地国庫帰属制度の統計」11月末現在のの結果)

申請件数 1,349件
帰属件数 48件
帰属土地が所在する都道府県
北海道,宮城県,秋田県,福島県,群馬県,埼玉県,千葉県,富山県,福井県,岐阜県,愛知県,三重県,滋賀県,京都府,岡山県,広島県,徳島県, 香川県,愛媛県,佐賀県,熊本県,宮崎県,鹿児島県

長野県がありません。大変厳しい数字です。

取下件数92件,不承認件数4件だそうで,実際の承認率は,48/96で,50%程度で,他は,審査中かと思われます。

相続土地国庫帰属制度は要件が厳しめ(以前の本ブログの記事参照)のため,慎重な検討が必要です。

相続人申告登記も視野に

相続登記の義務づけられても,すぐに登記できない場合もありますね。

そこで,相続登記の準備段階として,「相続人申告登記」という制度が来年4月からスタートします。

「相続人申告登記」は,相続人が申請義務を簡単に解決できるようにするため,新たな登記として設けられました。

具体的には,
 ①所有権の登記名義人について相続が開始した旨
 ②相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に申し出る
ことで,申請義務を相続登記の代わりに,履行したものとみなされる制度となります。
(仙台法務局:「相続登記の申請の義務化と相続人申告登記について」)

メリットしては,
 ①相続人が複数存在する場合でも,特定の相続人が単独で申出が可能
 ②法定相続人の範囲や,法定相続分の割合の確定が不要
となります。
(仙台法務局:同上資料)

以上のように,遺産分割協議が遅れて誰が相続するかが分からなかったり,相続人が数十人いて,戸籍が集めるのが大変である等,法定相続の割合の確定が難しい場合などは,相続人申告登記の検討も必要かと思われます。

相続税の基礎控除の範囲でも,お知らせの来ることがあるらしい

相続税で基礎控除の範囲内でも,真偽はともかく,税務署から申告するようにお知らせが来たという,記事がありました。
(THE GOLD ONLINE:【遺産総額4200万円】50代独身女性、税務署から届いた「相続税についてのお知らせ」に震える…申告期限まで1ヵ月半の〈絶体絶命〉

相続税で基礎控除の範囲内でも,真偽はともかく,税務署から申告するようにお知らせが来ることがあるらしいです。

税務署からお知らせが到着したら焦ると思いますが,申告の期限(故人の死亡の翌日から10か月以内に申告書を提出:相続税法第27条第1項)があるため,注意が必要です。

土地の国有化制度と悪徳商法

国有化の希望は増加していますが,悪徳商法への懸念があります。

相続土地の国庫帰属制度の申請の受付が4月から開始されているようですが,法務局への相談が相次いでいるようです。

国庫帰属制度は,固定資産税や管理等の負担を減らすには有効ですが,この制度の利用には厳格な要件があるため,今後悪徳商法の被害が増加する懸念があります。
(参考:読売新聞「土地を相続したけど使い道ない…「国有化」相談殺到、「所有者不明」防ぐ制度」)

例えば,原野が値上がりすることを謳ったり,放棄に多額の手数料が必要となったり,知らないうちに別の土地も買わさらたりする可能性も出てきます。

新たに被害が出ないよう,まず,土地の国有化制度は,要件が厳密であることを知っておく必要があるかと思います。
(要件例は,過去のブログを御覧ください。「不要な土地の放棄の問い合わせ増加」)

遺言書の保管を勧められた

あまり申請件数が多くないようです。

長野地方法務局では供託と遺言書の保管が,同じ窓口で行われています。

遺言書の保管は,3年位前から始まった制度で,自筆で書いた遺言を保管し,遺言の保管を相続人に通知することができ,家庭裁判所の検認を不要とする制度です。
(参照:法務省「自筆証書遺言書保管制度について」)

当該法務局の職員のかたから,申請件数が少ないということですすめられました。

全国で遺言書を作成している人が全体の7%弱に過ぎないというデータがあります。
(参考:平成29年法務省調査「平成 29 年度法務省調査我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務」)

政府や金融機関が個人投資を推進していることもあり,財産が複雑化し,個人の株式や投資信託の保有が増えており,個人資産も複雑化しています。
(参考:日本証券業協会「個人株主の動向について」)

よって,今後は多くのかたが資産を的確に後世に伝えるため,遺言の作成されることをおすすめしています。

相続人の相続(数次相続)の後相続に遺言書で全部相続(包括遺贈)があった場合,前相続の当事者は,全部相続者(包括受遺者)のみにできる

不動産の名義人甲が死亡し,その相続人が乙と丙であり,遺産分割協議未了の間に丙が死亡した場合,丙の相続人はA,Bの2人になりますが,丙が「全ての相続財産をAに相続させる」との遺言書を作成していたときには,前の相続の遺産分割協議の当事者は,乙とAの2名となります。Bの遺産分割協議への参加不要です。(登記研究831号参照)

ただ、Bから遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)がなされていない場合に限るようです。よって,遺産分割協議書に「Bから遺留分侵害額請求権の行使がない」旨の記載をするか,上申書を添付するかのどちらかが必要となるようです。
(出典:圓岡(まるおか)先生のホームページ「数次相続発生時に、相続人の一人に全部相続させる旨の遺言(包括遺贈)がある場合」)

司法書士同期に聞かれて,調べてみました内容ですが,法律上(民法 第990条 包括受遺者の権利義務)正しくても登記申請で使えるか,金融機関では,どうかという点では考えないといけないので注意が必要です。

相続登記の申請義務の違反者には,分かった時点で円滑に過料制裁をするつもりのよう

不動産登記規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集にて,相続登記申請義務化にあわせて,過料(行政手続き上の罰金みたいなもの)の手続きの整備がされるようで,過料制裁(裁判所から罰として国にお金を払うよう通知がいく制裁)が間違いなく機能することになりそうです。
(参考:「不動産登記規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集」)

不要な土地の放棄の問い合わせ増加

法務省(法務局)への問い合わせが全国ですでに3,000件超だそうです。
(参照 TBS NEWS DIG:「不要な土地は“相続放棄”「相続土地国庫帰属制度」が開始 相談すでに3000件超【Nスタ解説】」)

法務局にもすでに説明もありますが,
・審査手数料(登録免許税)は14,000円が基本
・負担金は,原則1筆20万円(土地によっては面積に応じて変動する)
・審査にかかる期間は,半年以上1年程度
(参考 法務省:「相続土地国庫帰属制度のご案内」)

3,000件とは,ものすごい勢いですね。

いらない土地のみを放棄する「相続土地国庫帰属制度」の開始

4/27から「相続土地国庫帰属制度」が始まるそうです。
法務省:「相続土地国庫帰属制度について」)

相続した土地で,負担が大きい等土地を手放したい場合に,国の資産である国庫に帰属させることができるようになる制度です。

所有者が申請し,法務大臣(法務局)の審査と承認を経て国庫に帰属させます。

承認の条件として,1筆最低20万円の負担金が必要なことと,土地の要件として,以下のものが挙げられています。
・建物がない
・抵当権等の担保設定がない
・通路,道路に使用されていない
・土壌汚染されていない
・境界に争いがない
・崖でない
・車両等の工作物がない
・森林でない場合は樹木がない
・森林の場合,森林整備計画に定めた造林,間伐等に適合している
・地下に産業廃棄物等がない
・土砂崩れ等の災害の発生のおそれがない
・鳥獣,病害虫が生息していない(軽微なものはOK)

これだけ条件が厳しいと,そもそも民間で売れる土地のような気もしますが…
運用が明らかになってきましたので,今後,不要な土地について,相続放棄や売却とともに検討に加えていただければと思います。