ブログ(業務日誌)

相続した空き家の売却特例の可否

空き家特例の概要

相続した空き家を売却する際に適用できる「空き家特例」は,父または母が居住していた土地・建物を売却した場合に,所得税の譲渡所得について特別控除が認められる制度です。
(国税庁「相続した空き家を売却した場合の特例 チェックシート」)

空き家増加と特例の注目

空き家が増加傾向にあるようで,将来の売却を見据えて空き家特例の適用を前提とした名義変更を相談される方も増えてきています。
(参考:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」)

注意点

特例の可否判定を十分に検討せずに名義変更をしてしまうと,後から修正することが困難な場合が多いです。
特に「更正登記や再遺産分割協議で是正できないか」との相談が寄せられますが,実際には救済されないケースが多いようです。

裁判例や実務の指摘

専門家となる税理士とよく相談の上で検討する必要があります。
更正登記や再遺産分割協議をしても特例が認められないケースが多いことが指摘されています。
(参考:税法好きAIお嬢(オタク)の実務ノート「【判例×実務】東京地裁R6.9.2判決と空き家特例——譲渡前の『抹消・再登記』で特例適用の余地」)

専門家に相談を

空き家特例を見据えて売却を予定する場合は,国税庁チェックシートで一次確認を行い,必ず税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
名義変更と売却の順番と設計が重要であり,一度進めた手続を後から更正しても救済されないことが多いため,事前の全体の設計で失敗を防ぐようにしましょう。

お盆はベストタイミング-家族が集まる今こそ話しておきたい相続のこと

◆お盆は家族が集まる貴重な機会

普段は離れて暮らす家族や親戚も,お盆には一堂にかいす場合が多いです。相続の話は全員がそろっている時でなければ難しくことが多く,お盆はその絶好のチャンスと言えます。


◆相続の話は「安心の準備」

「相続の話をするのはちょっと…」という声もありますが,実際には家族の安心を守るための準備です。事前に方向性を決めておけば,将来の争いや手続きの混乱を防げます。


◆話し合うべき主なポイント

  • 遺言書の作成や,保管場所の確認
  • 相続財産の概要(特に不動産)
  • 葬儀やお墓の希望
  • 分割方法や生前贈与の方針の確認

◆話し方のコツ

感情的にならないために,「資産の額」からではなく「思い」や「希望」から話し始めるとスムーズかと思われます。
「もしものときに家族が困らないように」——という前向きな姿勢で進めるのがいいとされています。


◆とにかく話してみてください

お盆は単なる帰省の機会ではなく,家族全員が顔を合わせる年に数回の貴重な時間です。相続の話を先延ばしにすることなく,お盆の団らんの中で第一歩を踏み出すのがよいかと思います。

自筆証書遺言の原稿用紙の公開について

本日は,当事務所(山下司法書士事務所)で使用している「自筆証書遺言書」の原稿用紙を公開いたします。

自筆証書遺言原稿(PDF)


自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言書は,公正証書遺言書と比較して,手軽に作成できるという大きな利点があります。費用や作成にかかる期間も抑えられ,自身のタイミングでいつでも撤回・修正できるという柔軟性も魅力です。

一方で,

  • 記載方法に誤りがあると無効になる可能性がある
  • 偽造・改ざんのリスクがある

という点には注意が必要です。


作成方法の一例

遺言書を自筆で作成される場合,この原稿用紙を印刷してご利用いただき,全文・日付・氏名を自筆で記載し,押印することで,形式上の要件は満たすことができます。

さらに,下記のように,封筒に「遺言書」などと明記し,検認の注意書きと日付・氏名を書いて封印しておくことで,秘密性もある程度確保され,トラブルのリスクも軽減されます。

また,封筒に署名をせずに,証人とともに公証人役場で手続きをすれば,「秘密証書遺言書」として正式に取り扱われることも可能です。こちらは内容を他人に知られたくない場合に有効です。


内容の参考:長野地方法務局「エンディングノート」

遺言書の具体的な内容について悩まれる方は,長野地方法務局が作成した「エンディングノート」を参考にされると良いでしょう。

長野地方法務局「エンディングノート」


専門的な内容が必要な場合は

財産の分け方が複雑な場合や,相続人間でのトラブルが予想される場合には,専門家への相談をおすすめします

当事務所はもちろん,全国の司法書士事務所・弁護士事務所でも,内容確認やアドバイスを行っていますので,お気軽にお問い合わせください。

地価上昇とともに増える不動産税収

近年,都市部を中心とした地価の上昇が続くなか,不動産に関する税収が大きく伸びているようです。

総務省の発表によれば,令和6年度の不動産取得税は4,546億円に達し,これは実に17年ぶりの高水準となったとのこと。
加えて,固定資産税は,過去最高を更新したとのことです。
(参考 日本経済新聞社「地価上昇、潤う不動産税収」)

不動産を取得・保有・売却する過程では,それぞれ異なる税金が課されます。
取得時には不動産取得税,保有時には固定資産税,売却時には譲渡所得税などが代表例です。これらの税は,不動産取引をする方にとって,避けて通れないコストです。

なかでも,相続や住宅ローンの負担が問題となる今,地価上昇に伴って課税評価額も上昇し,税負担が重くなる傾向が見られます。
こうした背景から,不動産にかかる税制を見直すべきだという議論も徐々に高まりを見せているのが,日本経済新聞社の分析のようです。

これからは,税制の動向や評価基準の変化にも注意を払いながら,不動産の取得・保有に関する判断を行うことが重要になるとかと思われます。

【令和7年度 路線価】全国平均2.7%上昇,長野県も0.6%上昇―4年連続の上昇傾向

国税庁が発表した令和7年度年分の「路線価」は,全国平均で2.7%の上昇となり,4年連続のプラスとなりました。観光需要の回復や都市部の再開発が影響しており,地価の上昇傾向が続いています。

長野県でも0.6%の上昇が見られ,昨年に続いてプラスとなりました。特に観光地や交通利便性の高い地域では,上昇傾向とのことです。
(参考:ビジネスジャーナル【路線価4年連続上昇=平均2.7%、インバウンド影響―下落県も減少・国税庁】)

路線価とは?

まず,簡単に「路線価」とは何かをおさらいしておきます。

路線価は,相続税や贈与税の算定基準となる土地の評価額のひとつで,主要道路に面した土地1㎡あたりの価格として,毎年7月に国税庁が発表しています。実勢価格(実際の取引価格)とは多少の乖離があり,納税実務や不動産評価に大きな影響を与えます。

なお,路線価の上昇は相続税や贈与税の評価額にも影響するため,土地を所有されている方は今後の資産対策を検討されることをおすすめします。

代表取締役の住所が登記簿に非表示可能に|実施状況と注意点

令和6年10月より,株式会社の登記簿(登記事項証明書)における代表取締役の住所表示について,非表示とする制度が始まりまっています。

これまで,登記簿に記載される代表取締役(社長・会長等)の住所は公開情報とされており、誰でも取得できる登記事項証明書で確認できました。

しかし,近年の個人情報保護意識の高まりや,著名企業の経営者のプライバシー確保を背景として,制度が見直されたかたちです。


制度開始後の実施件数

法務省が発表したデータによると,令和7年3月末時点での制度利用実績は以下のとおりです。

  • 【新規設立】非表示申出件数:1,564件
  • 【設立以外(選任・重任等)】非表示申出件数:4,975件

(出典:法務省「代表取締役等住所非表示措置の申出による実施件数(月報)」)

また、日本経済新聞の分析によると,新規法人における住所非表示の割合は約3%程度とのことです。
(日本経済新聞社「社長の住所は公開する? 与信のジレンマ、新規法人の非表示3%」)


非表示による懸念点

代表取締役の住所を非表示とすることには,いくつか注意点や懸念事項もあります。

特に金融機関や取引先にとって,代表取締役の住所は以下のような理由で重要な情報です。

  • 与信判断のための参考情報(信用調査)
  • 会社に連絡がつかない場合の実質的責任者への連絡先
  • 会社が実質的に活動しているか否かの判断材料

このような背景から,信用力が十分でない新興企業や小規模事業者が住所を非表示にすると、かえって疑念を持たれる可能性もあります。


住所非表示が向いている企業とは?

一方で,以下のような企業にとっては,住所非表示制度は有効なプライバシー保護手段となり得ます。

  • 上場企業や大手企業など,すでに信用基盤のある会社
  • セキュリティ上の懸念がある経営者
  • 一定の資金調達ルートが確保されている会社,売上が親会社のみの完全子会社等

制度を利用するには?

この住所非表示の登記は,以下の手続きと「同時」にしか行うことができません。

  • 会社の設立登記時
  • 代表取締役の選任・重任時
  • 代表取締役の住所変更時

そのため,該当の手続きが発生した際には,直ちに住所非表示を検討する必要があります。

手続きの際は,司法書士へご依頼いただくことをおすすめします。必要な書類や申出の形式など専門的な手配が必要ですので,早めのご相談が安心です。

当事務所では,住所非表示制度に関するご相談・手続のご依頼も承っております。新設会社の登記や,代表取締役の変更登記の際には、お気軽にご相談ください。

【お知らせ】チラシの内容を一部変更いたしました

いつも当事務所の業務にご理解を賜り,誠にありがとうございます。
今回は、当事務所のチラシに関するご案内と,来所時のご注意点についてお知らせいたします。


チラシ内容と地図を一部修正しました

当事務所で配布しているチラシ「相続手続きをお済みですか?」の地図部分を更新いたしました。

近隣の建物のうち,以前は別の用途で使われていた場所が、現在はデリシアの研修センター様になっており、これを反映させた地図に修正しています。来所の際は,研修センター様を目印にしていただくと分かりやすいかと思います。


ご来所の際の行程について

カーナビやスマートフォンのGoogleマップ等のナビ機能の普及により,以前に比べ道案内は必要ないことが増えました。

ただし、当事務所周辺には道幅が狭い箇所や,石の灯篭など障害物がある場所もございます。お車でお越しの際は,どうぞご注意の上、安全運転でお越しください。


チラシの配布について

当事務所では、地域の皆様に向けて色分けしたチラシを5種類ほど用意しており,内容は同一ですが配色を変えてランダムに配布しております。

チラシは今すぐ必要な情報でないかもしれませんが,相続や名義変更などは人生で一度は向き合う可能性のある手続きです。
お手元に届きましたら,捨てずに大切に保管していただければ幸いです。


チラシや挨拶状に関するよくあるお問い合わせ

1.相続登記はいつ必要ですか?

「名義人がまだご存命ですが,相続登記が必要ですか?」というご質問を多くいただきます。
→ご本人がご存命のうちは相続登記は必要ありません。ただし,将来に備えて遺言書の作成や家族信託を検討されることはおすすめです。

また,自身で購入されていない場合や相続手続きが済んでいない場合には登記簿を確認されることをおすすめしております。

2.なぜうちにチラシを?

配布先の情報を当事務所が把握しているわけではありません。近隣一帯に配布しているのみで,特定のご家庭を対象にしているものではありません。

ご心配な方には,個人情報の開示請求(有償)にも対応可能です。ただし,当方で情報を保有していない場合には「不存在」とご回答いたします。

3.チラシや挨拶状の配布を控えてほしい

可能な限りご希望に沿うよう努力しておりますが,誤って配布されてしまうこともあります。その際はお手数ですがご自身で破棄していただければと思います。

また,ご依頼の完了後のお礼状や挨拶状の送付を希望されない方,あるいはお引越しやご逝去により宛名の方が不在である場合は,ご連絡をいただければ名簿から削除いたします。


チラシや挨拶状は手作業で行っています

今回のチラシや挨拶状は,内容の作成から印刷,封入,配布まで基本は当事務所で手作業にて行っております。
プロが作成しておらず,拙い部分もあるかと存じますが,お手元に届いた際には,どうぞ温かい目でご覧いただけますと幸いです。

今後とも地域の皆様に寄り添った情報提供を心がけてまいりますので,何卒よろしくお願い申し上げます。

再婚と遺産トラブルを回避した遺言書

再婚された方の相続に関するトラブルは,実は意外と多く見られます。特に,前婚の親族と後婚の親族の間で,遺産分割をめぐる意見の対立が起きやすいです。

ある記事では,このような事例が紹介されていました。(参考:朝日新聞『熟年再婚で義理親子の「争続」が勃発 遺言トラブルで検認が増加』)

前婚の子と,後婚の配偶者の親族との間で遺産をめぐる対立が起こりそうになったが,被相続人が生前に作成していた遺言書によって,スムーズに解決された。

このような対立は決して珍しくありません。たとえば次のような具体的なケースがあります。

  • 前婚の子の住家となっていた不動産が,後婚の妻に相続されそうになったため,住み続けられなくなるおそれが出た
  • 後婚の妻が,日常の生活費として確保していた貯蓄を,前婚の子から遺産分割の対象として要求された

遺言書は,相続人間のトラブル防止に極めて有効な手段です。

実際に,司法統計でも遺言書の検認の件数はここ数年増加傾向にあります。これは,遺言書が今後の相続対策として注目されている証拠とも言えるでしょう。

相続対策としてのポイント

  • 再婚など家族関係が複雑な場合は,生前からの対策の検討が必要
  • 遺言書の作成により,自身の意思を明確にでき,後の親族を守ることができる
  • 遺言執行者の指定や公正証書遺言にすることで,執行力(遺言を有効にする力)を高められる

再婚に限らず,親族関係において少しでも「気がかり」な点がある場合には,遺言書の検討をおすすめします。

資産管理法人の「乗っ取り」で不動産が売却された事例

最近,資産管理会社などの法人を「乗っ取って」,その所有する不動産を勝手に売却するという衝撃的な事例が報告されています。
(参考 楽待編集部『法人の登記を書き換えて「勝手に物件売却」、防ぎようがない乗っ取り型」地面師の犯行とは』)

不動産や法人登記に関わる士業としても見過ごせない,悪質かつ巧妙な手口についてご紹介します。


事件の概要:会社を乗っ取って不動産を売却

この事例では,次のような手順で法人登記が不正に変更され,不動産が売却されてしまいました。

・代表者の「住民票」を不正取得

犯人は,虚偽の債権回収等,何らかの手段で法人の代表者の住民票を取得。これにより,本人確認資料の偽造に必要な情報が揃えられました。

・運転免許証を偽造

住民票の情報をもとに,代表者になりすました偽造の運転免許証を作成。これが本人確認資料として使われたと見られています。

・実印の登録変更を実行

勝手に会社の実印を変更し,その印影で会社の役員変更への登記申請書の押印等を行います。しかも法務局は,提出書類が整っていれば受付してしまいます。

・会社の登記変更 → 不動産売却

役員変更登記を済ませ,法人の代表者が偽者に切り替えられた状態で,資産である不動産を第三者に売却。
登記簿上はすでに代表者として記録されているため,司法書士や取引先も気づきにくい構造となっていました。


なぜ司法書士も見抜けなかったのか

登記の実務上,提出書類に不備がなければ手続きは進んでしまいます。
また,法人代表者が新任された場合,本人確認書類と印鑑証明書等が揃っていれば,本人かどうかの真偽を登記官が積極的に確認することはほとんどありません。

司法書士であっても,実印変更や代表者の移動が合法的に見える限り,不正を疑う材料は乏しく,「よほどの警戒心と知識」がなければ見抜くのは困難です。


どう防ぐべきか→ 登記簿・印鑑証明の定期的な確認

会社側としてできることは,実印が勝手に変更されていないか,役員構成に異常がないかなど,定期的に登記簿を確認するしか方法がないです。


防衛策は有効か

今回ご紹介したのは,会社そのものを乗っ取って資産を売却するという大胆かつ悪質な手口です。
不動産や法人に関わる方にとっては,決して他人事ではありません。

正しい知識と警戒心を持ち,日頃から防止策を講じておくことが,大切かと思われます。

相続税調査にAI導入・申告後も“AIの目”に要注意

令和7年(2025年)7月から,いよいよ相続税調査にAIが本格導入される予定です。
これまで人の目と経験に頼っていた税務調査が,データ分析に基づくスコア評価に移行しつつあります。


国税庁,AIで相続税の申告内容をスコア化

国税庁は,相続税の申告データを集約し,申告内容に基づいて「税務リスクスコア」を算出,このスコアをもとに税務署が実地調査を行うかを判断する仕組みに移行するとのことです。
(参考 THE GOLD ONLINE『2025年7月からAIによる相続税調査がスタート!相続税“調査率5%”の裏で迫るAIの目。「申告したら終わり」では済まされない新たな調査体制とは【国際税理士が解説】』)
(参考 日本経済新聞社「相続税もAIが調査へ 国税、申告漏れスコア化で狙い絞る」)

団塊世代の高齢化で相続件数が急増へ

今年度には団塊世代が75歳以上となり,今後相続件数が急増することが見込まれています。
従来の調査体制では対応が難しくなるため,調査効率の向上を目的にAIの導入が進められているという背景があります。


実際の相続税調査の割合は?

令和5事務年度における相続税の課税割合は9.9%ですが,そのうちの調査実績は以下のとおりです:

・簡易な接触:約12.0%
(=簡易な接触件数/申告書の提出に係る被相続人数)

・実地調査:約5.5%
(=実地調査件数/申告書提出人数)

(参考 国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」「令和5年分相続税の申告事績の概要」)

「申告すれば安心」ではない時代に

今後は,たとえ申告をしたとしても,AIの目によってリスクが高いと判断されれば,調査の対象になるという時代になってきます。


早めの対策と専門家相談を

今後,AIによる調査体制が本格化する中では,「とりあえず申告しておけば大丈夫」とは言い切れなくなります。
税理士などの専門家と連携し,正確な評価と適切な資料整理を心がけましょう。

相続税の申告忘れや軽視は,後のトラブルや追徴課税につながる可能性もありますので,くれぐれもご注意ください。