法律系士業の役割と業務範囲について

法律系の士業(弁護士や税理士など)は,その資格ごとに法律で定められた業務範囲があり,取り扱える業務とそうでない業務が明確に区分されています。当事務所では,取り扱えない業務が発生した際にはその旨をお伝えし,他の士業をご紹介するか,他士業に引き継ぐ形で対応いたします。以下に代表的な法律系士業の役割と業務範囲をご紹介いたしますので,参考にしていただければ幸いです。

各士業の主な役割と業務内容

  • 弁護士:訴訟事件や一般的な法律業務を担当します。(弁護士法第3条第1項)
  • 公認会計士:財務書類の監査と証明が主な業務です。(公認会計士法第2条第1項)
  • 税理士:税務代理や税務書類の作成・相談,財務書類の作成を行います。(税理士法第2条第1項・第2項)
  • 司法書士:不動産や会社・法人の登記手続き代理,訴状作成,供託申請の代理を担当します。(司法書士法第3条第1項)
  • 土地家屋調査士:不動産の表示登記,土地建物の調査測量を行います。(土地家屋調査士法第3条第1項)
  • 弁理士:特許,実用新案,意匠,商標の申請代理や鑑定業務が専門です。(弁理士法第4条第1項)
  • 社会保険労務士:雇用保険や労災保険,健康保険,年金関連の申請・届出書の作成代理を行います。(社会保険労務士法第2条第1項)
  • 行政書士:官公署へ提出する書類の作成・代理,権利義務や事実証明に関する書類の作成が業務範囲です。(行政書士法第1条の2第1項)
  • 海事代理士:船舶法や船員法,海上運送法等に定める申請・登記・届出の代理,書類作成を行います。(海事代理士法第1条)

各士業の業務範囲を理解することで,適切な専門家に相談しやすくなり,スムーズな対応が期待できます。今後のご相談の際にぜひご参考ください。

農地の仮登記農地の所有権移転について:許可と仮登記のポイント

農地の所有権移転を行う際には,いくつかの重要な手続きや条件があります。農地を所有・利用する際には,農業委員会の許可が必要です。これに加え,農地の転用(非農地化)を伴う移転や,農地のまま移転する場合など,さまざまな方法があります。

農地の所有権移転の方法

1.農地の転用後の移転
農地を転用してから移転する場合,市街化区域にある農地であれば,原則として許可が得られやすいです。
ただし、農業振興地域にある農地では,原則として転用は許可されません。
(参考 農林水産省「農業振興地域制度と農地転用許可制度の概要」)

2.農地のまま移転
農地を転用せずに移転する場合,譲受人が耕作することが前提となります。最近では、耕作面積の要件が緩和されてはいますが,依然として譲受人が耕作者であることは条件として維持されています。
(例 長野市「農地法の手続きについて」)

条件付所有権移転仮登記のメリットと注意点

農地の所有権移転には農業委員会の許可が必要ですが,許可の取得が難しい場合,「条件付所有権移転仮登記」が利用されることがあります。この仮登記にはいくつかのメリットがあります。

  • メリット
    他の人に所有権が移転されるリスクが低く,万が一,他の人に移転されても,後日農業委員会の許可が得られれば仮登記の権利者に所有権を戻すことが可能です。

しかし,仮登記の状態で譲受人が利用を始めてしまうケースが増えています。これは法律上の正式な譲受ではないため,本来ならば農地法に反する行為です。農地法第3条,同第4条では,許可のない利用は禁止されています。

また,許可がないまま長期間放置された場合,元の所有権や仮登記の状態での相続登記が必要になることがあります。このような状況では,土地を不要と感じた場合に元の所有者に所有権が戻るケースも散見されます。

まとめ:早めの対処が重要

農地に仮登記がされている場合,状況を把握し,早めに対処することが非常に重要です。後のトラブルを避けるためにも,適切な手続きと許可取得を早めに進めましょう。

住所が移せない場合でも「入居見込み確認書」で,住宅用家屋証明が対応できる

市区町村役場が発行する住宅用家屋証明書(所有権保存登記や抵当権設定登記の登録免許税を低減するために必要な証明書)を取得する際には,通常,あらかじめ,個人の居住の用に供したことを証明するため,その家屋に住所を移転しておく必要があります。
(租税特別措置法第72条の2,同施行令第41条等)

住宅用家屋証明書があれば,登記の手数料となる登録免許税が保存登記で0.4%が0.15%となり,かなりの登記費用の低減となります。住宅用家屋証明書の確実な取得が必須となるため,建物の完成後,住所を移してから登記する順番となるため,登記の申請をする際,かなり忙しい状況で住宅用家屋証明書を取得しなければなりません。

本年7月から住宅用家屋証明書の取得の際,市区町村への住民票の写しの提出がなくとも,「入居見込み確認書」の提出で対応できるようになったようです。
(国土交通省「住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置」の証明書の様式等 参照)

上記の確認書は宅建業者の証明となりますので,今後,家屋の買主様と連携を密にしてその確認をしていただくことになっていきそうです。

共同親権に関する民法改正が衆議院を可決

離婚後の共同親権を認めた場合,争いの種が増えるかもしれません。

離婚後の親権を父母共同で行うことが選択できる「共同親権」と子の監護に関する費用の先取特権に関する民法改正の法案が衆議院を可決しました。(民法等の一部を改正する法律案

離婚後の親権は改正案においては,協議離婚の場合は離婚前に協議で「双方又は一方を親権者と定める」とし,裁判離婚の場合は,「父母の双方又は一方を親権者」に裁判所が定めるとしています。(改正案民法 第819条)

また,一般の先取特権の中に「子の監護の費用」が追加されています。(改正案民法 第306条第3号)

商工ファンド(SFCG社)の根抵当権仮登記は抹消できますか?

今回は実務についてですが,商工ファンドの「根抵当権仮登記の抹消」の「訴訟」と「登記」が,研修の同期の司法書士の協力を得て実施できましたのでご報告します。

かつて事業者金融(商工ローン)として事業していた「商工ファンド」社,後の「SFCG」社(参考 Wikipedia「SFCG」)ですが,サブプライムローン問題による金融不安や,同社自身の損害賠償や過払い金の請求により,民事再生→破産開始決定と経営破綻し,令和元年12月18日に破産手続の終結により,法人格を失いました。

登記事項証明書の例

同社の商工ローンを組んだかたが所有している不動産に,同社を根抵当権者とする「根抵当権設定仮登記」がされていることがあります。なぜ仮登記かというと‥登録免許税を1筆・または1棟1,000円に抑えるためのように思われます。
(通常の根抵当権設定は,極度額の0.4%)

登記の効力として,仮登記権利者が配当を優先的に受けようとする場合には,あらかじめ根抵当権仮登記の本登記をしておかなければなりませんが,同社はすでに破産手続終結をしてしまっているため,仮登記権利者である同社が自らなにか手続きをする見込みはありません。このことが通常の根抵当権設定登記以上に,仮登記の抹消手続きを難しくし,手間と時間がかかるようになっています。ほぼ間違いなく登記の抹消「訴訟」により,抹消登記手続きを進めることになります。

また,通常会社に対する登記や訴訟をする場合には,会社の代表者を相手したり,共同にて行いますが,同社は法人格を失っているので,すでに代表者は存在しません。この場合,裁判所に同社の「特別代理人」を選任してもらわなければなりません。

このように同社の根抵当権設定仮登記を抹消して,お持ちの不動産を身綺麗にするためには,様々な検討を重ね,パズルを組み合わせるような手順を踏むことが必要となります。

大まかな流れとしては,

1.根抵当権の「抹消原因」の検討
 ある程度時間を経過しているのであれば,「時効消滅」の原因を検討します。
 根抵当権の時効消滅の場合,元本確定後10年(債務)または20年(根抵当権自体)を経過するする必要があります。

2.「元本確定」要因の検討
 債務者の死亡などで元本確定事由を確認します。元本確定がなされないと,根抵当権の債務や権利自体は時効にかからないようです。(参考 平成30年2月23日最高裁,事件番号:平成29(受)468

3.証拠書類の収集
・SMCG社の登記事項証明書
・不動産の全部事項証明書
・元本確定事由の証拠書類(例 債務者の戸籍謄本等)
 を集めておき,後に証拠として裁判所に提出します。

4.訴状の作成
 訴状の起案をします。特に訴額ですが,土地は評価額の1/2(価額)の1/2(担保権),つまり1/4が訴額です。(参考:平成6年3月28日民二第79号高等裁判所長官 「土地を目的とする訴訟の訴訟物の価額の算定基準について」)また,被担保債権の金額の方が低額な場合には,その額とされています。
建物は評価額の1/2(担保権)です。また,被担保債権の金額の方が低額な場合には,その額とされています。
訴額によっては簡易裁判所に訴えの提起をします。
事件名の例は「根抵当権設定仮登記抹消登記手続請求事件」。

5.法務局に相談
 訴状をある程度起案できたら,管轄法務局に起案した「請求の趣旨」で登記できるかを事案によっては確認することになります。(事案の形態が初めての場合など)
 例 登記原因とその日付
 「年月日確定」(元本確定日,判例では「年月日元本確定」というのもある)
→「年月日時効消滅」(元本確定日の翌日) 

6.特別代理人の選任申立
 不動産の所在地を管轄する地方裁判所(不動産価格(訴額)によっては簡易裁判所)の根抵当権仮登記抹消訴訟の提起と同時に,特別代理人の選任申立てをします。事件の内容によっては,この特別代理人をあらかじめ知っている弁護士に依頼し,就任承諾書を徴求の上,「特別代理人候補者」を記入することで,裁判所に特別代理人を早めに選任してもらえます。

8.期日,判決後,判決書正本と確定証明書を取得して抹消登記をします。
 時期によっては,元本確定登記のため,代位により根抵当権者の「商号変更」や「本店変更」登記が必要です。

今回担当してみて,課題もたくさんありました。

特に司法書士の簡裁代理権や弁護士により,訴訟を遂行すれば,本人の口頭弁論への出席は必要ないですが,訴額が高く,訴状の作成業務として司法書士が関与する場合には,本人(原告)に「口頭弁論期日に出席」してもらい,「陳述」と「証拠調べ」をしてもらわないといけないため,綿密な打ち合わせが必要でした。また,訴状や特別代理人の選任申立書のほかにも,多くの訴訟に必要な書類のやりとりをするため,本人(原告)と何回もやりとりをさせていただく必要があります。

期間的にも,受任から抹消登記まで,4か月から6か月はかかる見込みですので,そのあたりを見据えた上で,各司法書士にご依頼いただければと思います。

嫡出推定制度の変更と懲戒権の廃止

本年4月施行の民法改正のうち,すでに懲戒権が廃止されています。
懲戒権の内容は以前ブログで説明したことがあります。
(当ブログ:「懲戒場とはなんだ」)

懲戒権は,令和4年法律第102号の民法改正により,廃止されていますが,この同じ法律改正に基づき,本年4月施行により「嫡出推定」制度が新制度に移行します。

変更点は,
 ・婚姻の解消から300日以内であっても,母の再婚後に生まれた子は,再婚後の夫の子と推定(民法第772条第1項,第3項)
 ・女性の再婚禁止期間を廃止(民法第733条削除)
 ・嫡出否認権を「子」と「母」,親権つきの「養親」,「未成年後見人」,「前夫」にも拡大(民法第774条第1項から第3項)
 ・嫡出否認の訴えの出訴期間を1年→3年に伸長(民法第777条)
(参考:法務省「民法等の一部を改正する法律について」)

また,本法律施行の1年以内は,施行前に生まれた「子」や「母」も,嫡出否認の訴えを提起して,血縁上の父ではない者が子の父と推定されている状態を解消することができるようです。(令和4年法律第102号改正民法 附則第4条第2項後段)
嫡出否認には,期間制限があり,訴え(訴訟の提起)が必要なので,弁護士,司法書士等にご相談ください。

ただし,嫡出否認の訴えは,従前の判例で血縁関係がなくても,親子関係が取り消せなかったり,意見の分かれる判断が生じているため(例:平成26年7月17日最高裁判決  親子関係不存在確認請求事件),場合によっては,個別の事情に基づく判断となるかもしれません。

官報の電子化

今まで紙の本が中心であった官報が,電子のものが基本となります。

官報は,ウェブサイトで改ざんされないように電子署名がされた上で公開されることが基本となるよう法律が改正されます。
(内閣府 第212回 臨時国会 「官報の発行に関する法律案」)

改正後の法律の施行後は,電子の官報が正式の官報となります。

過去の法令の全文検索

「国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学大学院法学研究科の佐野智也講師,増田知子特任教授,同大学院情報学研究科の外山勝彦教授,同大学数理・データ科学教育研究センターの駒水孝裕准教授らの研究グループ」は,明治19年から平成29年までに公布された法律と勅令を全文検索できるデータベースを作成・公開したとのこと。
(場所:名古屋大学 法令データベース

稀に古い六法の本や国会のデータベース等を血眼になって調べないと分からなかったのですが,ある程度すぐに検索できるようになったので,非常に古い法律を調べるには有効です。素晴らしいと思います。

特に民法が,「明治の」民法と,「家族法改正前」(昭和22年公布・施行),「口語民法化」(平成16年公布,平成17年施行),「債権法改正」(平成29年公布,令和2年施行,ほぼ現在)のものが比較できるところがすごいです。
(場所:名古屋大学大学院法学研究科 佐野 智也 講師 法律情報基盤

そういえば,司法書士の受験は,文語体の民法から勉強をし始めて,口語の民法に変わったあたりのときであったのを記憶しています。旧の文語体のほうが,漢文みたいに論理的で覚えやすかったのですが,時代の流れによって親しみやすくするため,口語体になっていったのだと思います。

ステマは,景品表示法違反

インターネットの世界ではステマが多いようです。

今日は,ステマ禁止の話をします。

不当景品類及び不当表示防止法第5条第3項の内閣総理大臣の指定により,令和5年3月28日内閣府告示第19号によって,「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」,いわゆる「ステルスマーケティング」が10/1から禁止されました。
(参考:消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」)

事業者による広告なのか,個人の感想なのかがわからない状態によるサービスの説明には注意が必要かと思います。また,広告なのに広告であることを隠して,公に表示や誘引することだけでなく,企業自身が影響力のある第三者に,広告とわからない状態でこれらの表示や誘引を指示することも禁止に含まれます。
(参考:消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」)

宣伝は宣伝とわかるようにしてもらいたいものです。

所有者不明・土地建物管理制度と,管理不全・土地建物管理制度

管理などに障害のある不動産について,公的に管理する制度が4つあります。2つは前から存在する「不在者財産管理人」や「相続財産清算人」(旧相続財産管理人)によるものです。

あとの2つは,今年度から導入されたものとして,「所有者不明・土地建物管理制度」と「管理不全・土地建物管理制度」があります。

制度を紹介すると,

「不在者財産管理人」
従来の住所又は居所を去るなどして容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産の管理人がいない場合に,家庭裁判所が申立てによって,不在者財産管理人を選任します。(参考:最高裁判所「不在者財産管理人選任」)
管理範囲は「1人」単位の全財産となります。

「相続財産清算人」
相続人の存在,不存在が明らかでないときに,家庭裁判所が申立てによって,相続財産の清算人を選任します。(参考:最高裁判所「相続財産清算人の選任」)
管理範囲は「1人」単位の全財産となります。

「所有者不明・土地建物管理制度」
調査をしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物については,利害関係人の「地方裁判所」への申立てにより,その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができます。(参考:法務省「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります。」)
管理範囲は対象不動産単位(共有であっても可)となります。

「管理不全・土地建物管理制度」
所有者による管理が不適当(例 ひび割れ・破損が生じている擁壁,ゴミの放置・害虫の発生)である土地・建物については,利害関係人の「地方裁判所」への申立てにより,その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができます。
管理範囲は対象不動産のみとなります。

このように,事案に応じて管理人を家庭裁判所または地方裁判所に管理人を選任してもらうことになりますが,今年度導入された2つは不動産の管理の障害の対応に特化した制度となっています。